2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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多多重重染染色色超超解解像像顕顕微微鏡鏡にによよるるEEGGFF受受容容体体とと結結合合タタンンパパクク質質のの相相互互作作用用にに基基づづくく受受容容体体のの細細胞胞内内輸輸送送機機構構のの解解明明 京都大学大学院医学研究科 准教授 木内 泰 1. 研究の目的と背景 上皮成長因子受容体(EGF受容体)は、細胞外成長因子であるEGFとの結合よって、様々な細胞内シグナル伝達を惹起し、細胞分裂や生存、増殖に関わっている。EGFRは、エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれ、細胞内を輸送される。リソソームに送られると分解され、シグナルは停止されるが、一部は細胞膜へリサイクルされる。EGF受容体のエンドサイトーシス及び細胞内輸送は、様々なタンパク質が適切に配置された複合体によって引き起こされる。関連タンパク質の発現量の変化や変異によるエンドサイトーシス・細胞内輸送における異常は、細胞のがん化と関係していると考えられている。実際、様々ながん細胞で、EGF受容体は過剰に発現しており、EGFによる受容体の分解が遅くなることも報告されている[1, 2]。このエンドサイトーシス・細胞内輸送の制御機構を理解する上で、EGF受容体とその制御タンパク質の複合体の空間的な構成の詳細は重要である。 本研究では、従来の光学顕微鏡の分解能以下の領域で形成されるEGF受容体を基点とした多分子構造体を調べるため、多重染色超解像顕微鏡法IRISを用いて画像解析を行う。近年開発された超解像顕微鏡は、光学顕微鏡の分解能の限界(~200 nm)よりも一桁小さい分解能でタンパク質の分布の観察を可能にしている。しかし、分解能がタンパク質のサイズに近づいたため、抗体などによる標識の不均一さが目立ち、タンパク質の分布の正確な可視化が難しいことが問題となっている[3]。さらに蛍光色素を用いているために多種類のタンパク質を染め分け、同一の細胞で観察することも困難である。IRISは、1分子の位置決めに基づく超解像顕微鏡法PALM/STORMの原理を応用している(図1)。IRISでは、標的に結合した抗体や蛍光タンパク質に代わり、標的に結合解離する蛍光プローブを用いる。標的分子に結合した時の蛍光プローブを蛍光1分子画像として捉え、プローブの中心位置を高い精度で決定する。多数の中心点を積算することで高分解能画像を再構築する。このため取得する画像の枚数に応じて多数回のプローブの結合(すなわち標識)を捉え、標的の標識密度を上限なく高めることができる。プローブは標的に結合解離しているので簡単に洗い流せて、別の標的に対するプローブを加えることができ、多重染色超解像を取得することができる。 図1: 超解像顕微鏡法IRISの原理 すでに申請者は、細胞骨格や接着斑に局在するタンパク質のフラグメントから結合解離プローブを作成し、それらの細胞内構造の多重染色超解像を報告している(図2)[4]。本研究では、エンドサイトーシス部位に局在するタンパク質に対するプローブを新たに作製し、先行研究ですでに作成している細胞骨格に対するプローブと合わせて多重染色超解像解析を行う。 図2: IRISによる多重染色超解像。(A)細胞の底面と全体をTIRF照明とEpi照明で可視化した。アクチン線維 (TIRF緑, Epi青)、微小管 (TIRF黄, Epi赤)、中間径フィラメント (TIRFピンク, Epi紫)、接着斑 (TIRFオレンジ)が、細胞の底面(TIRF照明)(B)左図の白枠で囲まれた場所の個々の細胞骨格の拡大図。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) EGF刺激によるEGF受容体のエンドサイトーシス過程を観察するため、HeLa細胞に蛍光タンパク質を融合したEGF受容体とエンドサイトーシス関連タンパク質 −4−発表番号 2〔中間発表〕

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