2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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直直交交性性ドドナナーー・・アアククセセププタターーπ共共役役シシスステテムムにに基基づづくく励励起起状状態態ママネネーージジメメンントト 大阪大学大学院工学研究科 准教授 武田 洋平 1. 研究の目的と背景 “光の世紀”と称される21世紀において、光機能を自在に制御する技術・原理・システムの開発は、医療・情報・材料の多岐に渡る分野の飛躍的発展に貢献できる可能性を秘めていることから、極めて意義深い1)。本研究課題では、“光機能の自在制御”という命題に対する化学的アプローチの一つとして、直交型ドナー・アクセプターπ共役系に特徴的なスピン-軌道相互作用や振電相互作用を活用した光励起状態のマネージメント方法を提案・実践することを目的とした。具体的には、研究代表者がこれまでに旭硝子財団研究奨励助成を通じて開発に成功したU字型ドナー・アクセプター・ドナー(D–A–D)発光分子群2–5)をプラットフォームとして活用し、構造改変による熱活性化遅延蛍光と室温リン光のスイッチングの実現を目指した。 2. 研究内容 研究代表者がこれまでに得ている知見を基に、リン原子を鍵元素として導入した、立体配座的に柔軟な電子ドナーを有する新奇な捻れ型D–A–D分子1を設計・合成した(図1a)。1の希薄溶液の紫外・可視吸収スペクトルは、溶媒の極性に依らずほとんど変化しなかったの対して、発光スペクトルは顕著な正のソルバトクロミズムを示した(図1b)ことから、1の発光は分子内電荷移動励起状態からの輻射であることがわかった。D–A–D分子1をホスト材料へ少量ドープした薄膜を作製して時間分解分光測定したところ、非極性ホストであるZeonex薄膜中において、ナノおよびミリ秒の時間領域に遅延発光成分が観測された(図1c).さらに詳細な解析から、それぞれの発光成分は、熱活性化遅延蛍光(TADF)ならびに室温リン光(RTP)であることが明らかとなった。発光スペクトルから算出した励起一重項と三重項のエネルギー差ΔESTは、およそ600 meVであり、これは以前我々が報告したフェノキサジン3) およびフェノチアジン5) を電子ドナーとするD–A–D分子(~80 meV)よりも遥かに大きな値である。本結果は、電子ドナー性の低下により電荷移動状態が不安定化され(ΔESTが上昇)、その結果、T1からの1CTへの逆項間交差(TADFを与える)とT1からS0への輻射過程(RTPを与える)が拮抗したことを示している(図1d)と考えられる。以上のように、ドナーにおける架橋ヘテロ元素の電子的性質をチューニングすることで、捻れ型D–A–D分子の発光物理過程を大きく変調できることを明らかにした6)。 図1 D–A–D分子1のa)合成、b)溶液の吸収・発光スペクトル、c)ホスト材料中における時間分解スペクトル、d)ホスト材料中における光物理過程 以上の知見に基づいて、電気陰性度が炭素よりも小さいケイ素を架橋元素とする電子ドナーを用いたD–A–D分子2(図2a)を設計・合成し、様々なホスト材料中における光物性を調査した。予想通り、DPEPO中では化合物1と同様に、TADFとRTPの二重発光を示した。しかし、興味深いことに、TCTAをホスト材料に用いた場合、RTPのみを示すことを見出した(図2b).スピン-軌道相互作用の大きな重元素(ハロゲンなど)や希少金属元素(イリジウムやプラチナなど)を導入しなくとも、汎用元素のみで構成される有機分子から室温リン光が観測されたことは注目すべき点である。さらに、当該D–A–D分子2を発光材料として有機EL素子を作製したとこ−100−発表番号 50

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