2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ろ、外部量子効率(EQE)は約4%であり、重元素を含まない有機発光体を用いた有機EL素子としては最も高いEQEを示すことを明らかにした。本結果は、励起三重項状態からの光物理過程を制御し、熱活性化遅延蛍光とリン光がスイッチできた点で、当初の目的を達成したことになる。また、詳細な時間分解分光測定および理論科学計算から、観測された室温リン光は、第一および第二励起三重項励起状態(T1およびT2)からの発光であることが示唆されている。本研究成果は現在論文投稿中である。 図2 D–A–D分子2のa)分子構造、b)薄膜中における温度可変発光スペクトル 外部刺激に応答して発光色が変化する分子35)(図3a)の立体配座が光物理過程に与える影響を調べるために、粉体の時間分解分光測定を行なった。その結果、配座の違いによって光物理過程そのものが大きく変化することを明らかにした(図3b)7)。また、静水圧を希薄溶液に加えたところ、静水圧の増加に伴って発光スペクトルはレシオメトリックな応答を示すと共に、TADFが抑制されることがわかった(図3c)。本結果は、材料の環境変化(粘度上昇)により分子回転・振動が減少し、逆項間交差が抑制されたことを示唆しており、静水圧によるTADF制御の初めての例である8)。 図3 D–A–D分子3のa)分子構造と発光色の関係、b)時間分解スペクトル、c)静水圧に対する発光挙動応答 3. 今後の展開 以上のように、本研究では、様々なヘテロ元素を架橋元素として有する捻れ型D–A–D分子を創製し、軽微な構造改変で励起状態を大きく制御することに成功した。とりわけ、有機分子に特有である回転や振動による熱失活することなく、室温で励起三重項状態からリン光を示す発光材料が創製できたことは、今後の材料化学分野において重要な意味を持つと確信している。現時点ではまだまだ発光効率は低いものの、本若手継続グラントの研究を通じて得られた分子設計を活用することで、今後、イリジウムやプラチナなどの希少金属元素やハロゲンなどの重元素を用いることなく高効率な有機ELや高感どなバイオイメージングに資する発光材料の創製が可能になると期待される。 4. 参考文献 1) Data, P. Takeda, Y. Chem. Asian J. 2019, 14 (10), 1613–1636. 2) Takeda, Y.; Okazaki, M.; Minakata, S. Chem. Commun. 2014, 50 (71), 10291–10294. 3) Data, P.; Pander, P.; Okazaki, M.; Takeda, Y.; Minakata, S.; Monkman, A. P. Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55 (19), 5739–5744. 4) 武田洋平,有機合成化学協会誌,2016, 74 (10), 955–964. 5) Okazaki, M.; Takeda, Y.; Data, P.; Pander, P.; Higginbotham, H.; Monkman, A. P.; Minakata, S. Chem. Sci. 2017, 8 (4), 2677–2686. 6) Takeda, Y.; Kaihara, T.; Okazaki, M.; Higginbotham, H.; Data, P.; Tohnai, N.; Minakata, S. Chem. Commun. 2018, 54 (50), 6847–6850. 7) Data, P.; Okazaki, M.; Minakata, S.; Takeda, Y. J. Mater. Chem. C 2019, 7 (22), 6616–6621. 8) Takeda, Y.; Mizuno, H.; Okada, Y.; Okazaki, M.; Minakata, S.; Penfold, T.; Fukuhara, G. ChemPhotoChem 2019, 3 (12), 1203–1211. 5. 連絡先 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1 C4棟512号室 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 精密合成化学領域 Tel: 06-6879-7403 E-mail: takeda@chem.eng.osaka-u.ac.jp −101−

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