2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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半半導導体体界界面面にに蓄蓄積積さされれたた二二次次元元電電子子ガガススのの熱熱電電能能電電界界変変調調 北海道大学電子科学研究所教授 太田裕道 1. 研究の目的と背景 金属や半導体の熱電能(=Seebeck係数、S値)は、熱電変換材料の性能指数ZT(=S2·σ·T·κ−1)を決める一つの物理量であるとともに、その物質の電子状態を反映する極めて有用な物理量である。熱電能の物理的な意味は、「フェルミ準位における電子状態密度のエネルギー微分」であり、そのため熱電能は電子状態変化に非常に敏感である。例えば、電子状態密度が離散的になる低次元電子ガスの熱電能はバルクと比較して数倍に増強されるという理論が1993年にMITのHicksとDresselhausによって提案された[1]。我々は、2005年頃からSrTiO3の熱電能に着目した網羅的な研究を行い、バルクは勿論、人工超格子や電界効果トランジスタ構造を利用した二次元電子ガス(2DEG)の熱電能を計測した。その結果、2DEGの熱電能はバルクの約5−10倍に増強されることを見出した[2−5]。 Dresselhaus理論を実証するためには、例えば、3端子構造の薄膜トランジスタに電界印加し、キャリア濃度だけでなく、次元性を制御しながら熱電能の変化を計測するしかない。この課題を解決するため、2014-2015に実施した研究奨励助成において、超微細熱電材料用汎用熱電能計測装置を開発し、遷移金属酸化物を中心とした、様々な3端子構造の薄膜トランジスタの熱電能計測に成功した[6,7]。しかし、ここで熱電能計測に成功したトランジスタは、すべて「イオン」トランジスタであり、チャネル薄膜全体のキャリア濃度を変化させるため、電子状態の二次元性⇔三次元性に関する議論はできなかった。 本研究では、半導体ヘテロ界面に誘起される2DEGをゲート電界によって空乏させて、電子状態密度を二次元⇔三次元制御し、その時の熱電能をゲート電界に対して連続的に計測することで、Dresselhaus理論の実験的な検証を行った(図1)。なお、2DEGを空乏させて二次元性⇔三次元性を可逆的に変化させ、熱電能を計測するという試みは全く研究されておらず、本研究が初の試みとなる。さらに、本研究では熱電能電界変調法を透明酸化物半導体薄膜トランジスタに応用することでその動作メカニズム解析も行った。 2. 研究内容 2.1. AlGaN/GaNヘテロ界面二次元電子ガス[8] 窒化物半導体AlGaN/GaNヘテロ界面に蓄積される2DEGに着目し、ゲート絶縁体を用いた3端子薄膜トランジスタ構造を形成することで、AlGaN/GaN-MOSHEMT(高移動度トランジスタ)を作製、ゲート電界によって2DEGの濃度と電子状態密度の次元性(二次元⇔三次元)を制御しながら、「超微細熱電材料用汎用熱電能計測装置」を用いて熱電能を計測した(図1)。残念ながら、AlGaN/GaN界面に誘起される二次元電子ガスの濃度が十分ではないため、当初期待していたDresselhaus理論の実験的証拠は得られなかった。より高濃度の二次元電子ガスを誘起可能な別の系(酸化物)を用いて検証する必要があると思われる。なお、半導体GaN二次元電子ガスの熱電変換出力因子は最大で約9 mW m−1 K−2であった。これは一般的な半導体GaN(1 mW m−1 K−2以下)の10倍以上であり、既に実用化されている最先端の熱電変換材料(1.5−4 mW m−1 K−2)の2−6倍に相当する。この研究成果は、半導体二次元電子ガスのように高い電子移動度を維持しながら電子濃度を制御できる構造が、熱電材料の高性能化の鍵であることを明確に示すものである。今回使用したGaNの半導体二次元電子ガスは、非常に高価な単結晶基板の上にしか作製できないことに加え、熱伝導率が大きいことから、そのまま実用化に繋がるものではないが、実用化を控えた熱電材料を高性能化するための材料設計指針を与えると期待される。 図1 AlGaN/GaNヘテロ界面2DEGの熱電能電界変調の結果。三次元的な電子状態を示唆する−200 μV K−1/decadeのシートキャリア濃度依存性が見られる。 −104−発表番号 52

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