2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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2.2. 透明酸化物半導体BaSnO3−SrSnO3固溶体[9] 高いキャリア移動度と紫外可視透明性を示すワイドバンドギャップ(Eg ≒ 4 eV)透明酸化物半導体(TOS)ベースの薄膜トランジスタ(TFT)は、次世代オプトエレクトロニクスのためのデバイスとしてますます注目を集めている。TOSの中でも、BaSnO3−SrSnO3固溶体(Eg = 3.5−4.2 eV)は、その単結晶が非常に高い移動度を示すことからこの用途に適したTOSである。しかし、BaSnO3−SrSnO3固溶体ベースTFTの性能は、チャネルの有効厚さ(teff)およびキャリア有効質量(m*)といった基本的物性値が不明なため最適化されていない。本研究では、熱電能(S)電界変調によって計測されるS値の電界蓄積シートキャリア濃度(n2D)依存性と、S値の体積キャリア濃度(n3D)依存性を比較することで、Sr濃度が増加すると伝導チャネルのteff(≒n2D/n3D)が厚くなり、m*が減少することを明らかにした。前者はEgの増加によるものであり、後者は隣接するSn 5s軌道の重なり積分の増大によるものであろう。本分析技術は、実験的にteffおよびm*を明確にするのに有用であり、次世代TOSベースTFTを実現するために本質的に重要である。 2.3. ガスセンサー材料SnO2[10] 高度なフラットパネルディスプレイの開発には、高電界効果移動度(μFE)を備えた透明アモルファス酸化物半導体(TAOS)ベースの透明薄膜トランジスタ(TTFT)が不可欠である。TAOSの中で、アモルファス(a-)SnO2には、現在のa-InGaZnO4に対して、μFEが高く、インジウムが含まれていないなど、いくつかの利点がある。これまでにa-SnO2-TTFTの動作特性は数件報告されたが、SnO2のガス検知特性が強いため、動作メカニズムはこれまで明らかになっていなかった。本研究では、熱電能電界変調法によりa-SnO2-TTFTの動作メカニズムを明らかにすることを目的とした。膜厚4.2 nmのa-SnO2薄膜を表面パッシベーションなしでチャネルとして使用して、ボトムゲートトップコンタクトタイプのTTFTを作製した。チャネルの有効厚さは、ガスの雰囲気に関係なく常に約1.7±0.4 nmだったが、異なる雰囲気で大きなしきい値ゲート電圧シフトが発生した。これは、a-SnO2のガス分子との相互作用および結果として生じるフェルミエネルギーのシフトにより、a-SnO2薄膜表面付近(~2.5 nm)でキャリアが枯渇するためである。現在の結果は、a-SnO2-TTFTを開発するための有用な設計指針に繋がるであろう。 3. 参考文献 [1] L.D. Hicks and M.S. Dresselhaus, Phys. Rev. B 47, 12727 (1993). [2,4] H. Ohta et al., Nat. Mater. 6, 129 (2007). [3] H. Ohta et al., Nat. Commun. 1, 118 (2010). [4] H. Ohta et al., Adv. Mater. 24, 740 (2012). [5] Y. Zhang, H. Ohta et al., Nat. Commun. 9, 2224 (2018). [6] T. Katase, H. Ohta et al., Adv. Electron. Mater. 1, 1500063 (2015). [7] T. Katase, H. Ohta et al., Sci. Rep. 6, 25819 (2016). [8] H. Ohta et al., Adv. Sci. 4, 1700696 (2017). [9] A. Sanchela, H. Ohta et al., Small 15, 1805394 (2019). [10] D. Liang, H. Ohta et al., submitted to Appl. Phys. Lett. (in revision) 4. 連絡先 〒001-0020札幌市北区北20条西10丁目 北海道大学電子科学研究所 e-mail: hiromichi.ohta@es.hokudai.ac.jp URL: http://functfilm.es.hokudai.ac.jp/ 図2 BaSnO3−SrSnO3固溶体の熱電能の(a)シートキャリア濃度依存性(薄膜トランジスタ)と(b) 体積キャリア濃度依存性。 −105−

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