2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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のプローブにアルミニウムを付着させて、プローブ先端の原子の元素識別を行った。この場合、プローブ先端の原子としてシリコン(Si)とアルミニウム(Al)の2つの可能性がある。そこで、図2に示すような化学結合エネルギー測定を、59個の異なるプローブを用いて行った。すると、図3のような結果が得られた。1つのプローブの結果が1つのプロットに対応する。ポーリングの化学結合論から予想されるSiとAlに対応する直線と比較すると、実験で得られたプロットは、2つの直線のどちらかに分類できることがわかる。つまり、各々のプローブにおいて、先端に付着している原子がSiであるかAlであるかが明確に識別できたことになる。 さらに、先端の原子が識別されたプローブを用いた応用実験も行った。以前の研究により、AFMによって試料表面の単原子の電気陰性度が測定できることを示していたが、解析の一部に理論計算によるサポートが必要だった。今回、元素識別されたプローブを用いることで、実験のみで表面原子の電気陰性度を決定できることが分かった。 3. 今後の展開 今回開発された元素識別法により、構成元素が不明、かつ、構造が不規則な実材料表面に対しても、元素分析への道が拓かれた。すなわち、AFMにより実材料表面を観察して、任意の場所にプローブを接触させその先端に原子を付着させ、その原子を元素識別できる。よって、汎用性の高い原子スケールの元素識別法が確立されたと言える。本研究で、さまざまな実材料表面に対する原子スケールでの化学分析が可能となったので、今後の材料探索や分析化学の分野において大きな貢献をしていくことが予想される。 4. 参考文献 [1] ‘Chemical identification of individual surface atoms by atomic force microscopy’Y. Sugimoto, et al., Nature 446 (2007) 64 [2]‘Electronegativity determination of individual surface atoms by atomic force microscopy’J. Onoda, M. Ondracek, P. Jelinek, and Y. Sugimoto, Nature Communications 8 (2017) 15155 [3] ‘The nature of the chemical bond’L. Pauling, J. Am. Chem. Soc. 54 (1932) 3570 [4]‘Role of Tip Chemical Reactivity on Atom Manipulation Process in Dynamic Force Microscopy’Y. Sugimoto, et al., ACS Nano 7 (2013) 7370 [5]‘Ultrahigh-resolution imaging of water networks by atomic force microscopy’A. Shiotari and Y. Sugimoto, Nature Communications 8 (2017) 14313 5. 連絡先 杉本宜昭 (Yoshiaki SUGIMOTO) 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 〒277-8561 千葉県柏市柏の葉5-1-5新領域基盤棟6A5 TEL/FAX: 04-7136-4058 E-mail: ysugimoto@k.u-tokyo.ac.jp HP: http://www.afm.k.u-tokyo.ac.jp 図2 Si 原子とAl 原子上で測定された 化学結合エネルギー。 図3 化学結合エネルギーの散布図。1つのプローブで得られた結果が1つのプロットに対応する。ポーリングの化学結合論による予想直線が描かれている。赤い実線がSi原子で、青い破線がAl原子に対応する。それぞれのプローブにおいて、先端の原子がSiであるかAlであるかが明確に識別できている。−109−

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