2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
116/206

未未利利用用抗抗生生物物質質のの実実用用化化をを志志向向ししたた論論理理的的生生合合成成工工学学ププララッットトフフォォーームムのの構構築築 福井県立大学 生物資源学部 教授 濱野 吉十 1. 研究の目的と背景 streptothricin(ST、図1)は、多剤耐性菌を含む原核生物に対して強力な抗菌活性を示す期待度の高い抗生物質であるが、真核生物にも毒性を示すため実用化されていない。これまで、多くの研究者がSTの化学構造を有機化学的に改変する方法によって、真核生物への毒性緩和にチャレンジしてきた。しかし、STの発見から70年以上経過してもなお、その成功例は報告されていない。微生物ゲノム情報の利用が容易になった今、生合成工学による論理的なアプローチは有効であり、研究者の長年の夢であったSTの毒性緩和が現代の技術で可能になると期待される。未利用のSTに生合成工学を適用し、医薬品として実用化するためには、ST生合成の全容解明が必須であり、これまでの研究で我々は、STの生理活性に重要なストレプトリジンラクタム構造およびb-リジンオリゴペプチド側鎖構造(図1)の生合成メカニズムを明らかにした。本研究では、現在加速的に進む微生物ゲノム解読の情報から未同定のSTホモログ生合成遺伝子群の探索、および機能解明を行い、これまでに得られた知見と組合せることによって、論理的な生合成工学による新規ST類縁化合物の創製を目的とした。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) STは、糖構造を中心に様々なペプチド側鎖またはアミノ酸誘導体が付加されており、我々はその側鎖構造の生 図1 ST類縁化合物の化学構造 合成に着目して研究を展開してきた。これまでに数多くの放線菌からST類縁化合物が発見されているが、これら化合物はアミノ酸側鎖構造としてb-リジン側鎖またはグリシン誘導体側鎖のいずれかを有している。これまでの研究で我々は、STのb-リジン側鎖が新規非リボソーム型ペプチド合成酵素によって生合成されるのに対し1)、ST類縁化合物の一つであるBD-12(図1)が有するグリシン側鎖の生合成においては、アミノアシル-tRNAアミノ酸(aa-tRNAaa)依存型アミド合成酵素であるOrf11が、タンパク質翻訳システムからGly-tRNAGlyをハイジャックし、BD-12生合成中間体glycylthricin(GT、図1)の生合成に利用していることを明らかにした2)(図2A)。したがって、Orf11ホモログ酵素の中にはGly以外のaa-tRNAaaを基質として認識する同様の酵素が存在すると考えられ、ホモログ酵素の探索は、その応用利用による新規アミノ酸側鎖を有するST類縁化合物の創製が期待された。そこでBD-12生合成遺伝子群との相同性を指標にOrf11ホモログ酵素遺伝子の探索を行ったところ、放線菌ゲノムデータベースよりOrf11に高い相同性を示すSba18を見出した。Sba18遺伝子の近傍には、BD-12生合成遺伝子群が有する全ての遺伝子セットが存在したことから、Sba18もOrf11と同様の反応を触媒することが示唆された。そこで実際にSba18組換え酵素を用い、大腸菌由来Gly-tRNAGlyを基質にin vitro反応を行ったところ、我々の予想通り、Gly-tRNAGlyを基質認識し、GTを 図2 tRNA依存型アミド合成酵素Orf11(A)とSba18 (B) NHHNNHNOHHOHOOHOOHH2NOHNNH2OOrf 11NHHNNHNOHHOHOOHOOHH2NONH2NH2OO(A)(B)NHHNNHNOHHOHOOHOOHH2NOHNNH2OSba18NHHNNHNOHHOHOOHOOHH2NONH2NH2OORRR = H; Gly-tRNAGly = CH3; Ala-tRNAAla = CH2OH; Ser-tRNASernew compoundsAppl. Environ. Microbiol., 82, 3640-3648 (2016) Streptomyces StreptomycesGly-tRNAGlyglycylthricinglycylthricinand −110−発表番号 55 〔中間発表〕

元のページ  ../index.html#116

このブックを見る