2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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脂脂肪肪族族カカルルボボニニルル化化合合物物をを基基盤盤ととすするる巨巨大大ππ共共役役系系化化合合物物のの 「「一一筆筆書書きき合合成成法法」」のの開開発発 北海道大学大学院工学研究院 准教授 猪熊 泰英 1. 研究の目的と背景 π共役電子系を有する有機化合物は、発光や電子輸送材料として広く利用されている。このような材料の性能を向上させたり、新たな用途を開拓したりするためには、π共役化合物の新奇合成手法の開発が不可欠である。近年では遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応によって芳香環を構成単位とするπ共役化合物の合成範囲が大きく広がったが、設計自由度という観点からは未だに研究の余地が残されている。我々はπ共役化合物への新しいアプローチとして、ポリケチドと呼ばれる代謝物の生合成経路に着目した。この合成系では、様々な分子構造を持つπ共役化合物がポリケトンという共通の原料から作り出される。この合成系の最大の特徴は、最終的なπ共役系をなす炭素骨格が原料であるポリケトンの炭素鎖に対応して“一筆書き”で辿ることができる点である。そこで本研究では、既存のクロスカップリング反応手法から脱却し、柔軟な発想に基づくπ共役化合物の新奇合成法を開拓するために脂肪族ポリケトンを鍵とするπ共役化合物の「一筆書き合成法」を目指すこととした。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 本研究では、アセチルアセトン誘導体を段階的に重合させて得られる脂肪族ポリケトン1[1]をπ共役化合物の主原料に用いて研究を行った。長さが決まった単分散のポリケトン1a–cをヒドラジンと脱水縮合させると、全てのカルボニル基がイミンに変換されたポリイミン2a–cが80–89%の収率で得られた(図1)。次に、ポリイミン2a–cを1,4-ジオキサン中でp-クロラニルによって酸化したところ、全てのエチレン架橋部位がビニレン基へと変換された共役ポリイミン3a–cが収率73–87%で得られた[2]。単結晶X線構造解析および1H NMRによる分析の結果、得られた生成物は全てのビニレン架橋がtransの立体配置へと立体特異的に酸化され、全てのジイミン部位をπ共役で連結していることが分かった。また、化合物3aおよび3bの結晶構造では全てのsp2炭素が同一平面上にあるπ共役に有利なコンフォメーションをとっていた。 図1. π共役ポリイミン色素の合成 共役イミン3a–cの紫外可視吸収スペクトルは、繰り返し単位が増えるに従って最低励起エネルギーバンドが309, 363, 392 nmと長波長シフトすることが分かった。化合物3bおよび3cでは吸収端が可視領域に及んだことにより溶液が黄色を呈した(図2)。 図2. 共役ポリイミン化合物3a–cの紫外可視吸収スペクトル(CH2Cl2中)と3dの固体拡散反射スペクトル 20量体以上の長鎖ポリケトンを含む多分散ポリマー1dを用いて同様の反応を行ったところ、不溶性の共役OOOOOOna (n = 0)b (n = 1)c (n = 2)d (polymer)NNNNNNnH2NNH2•H2ONNNNNNp-chloraniln123a (n = 0, 89%)b (n = 1, 87%)c (n = 2, 80%)d (polymer, 94%)a (n = 0, 87%)b (n = 1, 78%)c (n = 2, 73%)d (polymer, 57%)−112−発表番号 56 〔中間発表〕 

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