2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ポリイミン3dが収率57%で得られた。この化合物は、赤外領域にまで及ぶ吸収バンドを示した(図2)。このことから、脂肪族ポリケトン1を用いた共役ポリイミンへの変換反応では、ポリケトンの長さに応じた直線状のπ共役系を合成可能であることが示された。 脂肪族ポリケトン1aおよび1cからは、特異なπ共役切断反応を示すポリエン系色素も合成できた[3]。テトラケトン1aを分子内で脱水縮合させて得られるペンタレン誘導体4は、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)による酸化を経て、カルボニル基が交差共役したトリエン5へと収率76%で変換された。同様に、オクタケトン1cあるいは化合物4の2量化によって合成される化合物6は、DDQ酸化によってヘキサエン7を収率53%で与えた(図3)。 図3. 脂肪族ポリケトンからポリエン色素の合成 ヘキサエン7は、中央にある2つのC=C二重結合が環境光下でE/Z異性化を起こすことが分かった。さらに、このヘキサエンにLED光源を用いて波長420 nm以上の可視光を10時間照射したところ、橙色の溶液色が退色し、1H NMRでは単一の光反応生成物8(NMR収率: 80%)の生成が確認された。この化合物8を単結晶X線構造解析したところ、ヘキサン7が2つのトリエンに切断されていることが分かった。この2つのトリエン部位は、新たに生成した不斉炭素によってほぼ直交配向で固定化されていた。ビス(トリエン) 8をキラルカラムによって光学分割したところ、R体とS体に鏡像関係の円二色性スペクトルが観測された。このことから、π共役切断反応によって生じた2つのπ共役系に励起子相互作用があることも確認できた。 図4. ヘキサエン77の光によるπ共役切断反応 ヘキサエン7の光転位反応は、脂肪族ポリケトンを分子内で折り曲げて得られた構造と交差共役したカルボニル基によって達成された新奇π共役切断反応であると言える。この点からも、「一筆書き合成法」で得られる新しい共役化合物の特徴が示せた。 3. 今後の展開 脂肪族ポリケトンの炭素鎖を直線型に伸ばしたり、分子内で折り曲げたりすることで、ユニークな分子構造と光応答性を有するπ共役系を合成することができた。今後は脂肪族ポリケトンの官能基化[4]とともに本「一筆書き合成法」を環状化合物に応用することで新奇芳香環の合成と物性評価を目指す方針である。 4. 参考文献 [1] M. Uesaka, Y. Saito, S. Yoshioka, Y. Domoto, M. Fujita, Y. Inokuma, Commun. Chem. 2018, 1, 23. [2] Y. Manabe, M. Uesaka, T. Yoneda, Y. Inokuma, J. Org. Chem. 2019, 84, 9957. [3] Y. Inaba, T. Yoneda, Y. Kitagawa, K. Miyata, Y. Hasegawa, Y. Inokuma, Chem. Commun. 2020, 56, 348. [4] P. Sarkar, Y. Inaba, H. Shirakura, T. Yoneda, Y. Inokuma, Org. Biomol. Chem. in press. 5. 連絡先 〒060–8628 北海道札幌市北区北13条西8丁目 北海道大学フロンティア応用科学研究棟4−01号室 TEL: 011-706-6556 E-mail: inokuma@eng.hokudai.ac.jp OOOO6OO4OOOOhexaene 7OOtriene 5DDQDDQPhClPhCl1atolueneTFABnNH21ctolueneTFABnNH21) LDA2) CuCl2−113−

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