2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ゲゲノノムム科科学学・・環環境境化化学学・・海海洋洋生生物物学学のの融融合合にによよるるイイカカ類類のの海海洋洋酸酸性性化化にに対対すするる適適応応遺遺伝伝子子のの探探索索及及びび同同定定 和歌山工業高等専門学校生物応用化学科准教授 Davin H. E. SETIAMARGA 11。。 研研究究のの目目的的とと背背景景 近年、軟体動物の貝殻形成の研究が盛んである。これらの研究の根本は「石灰化貝殻がなぜ、どのように作られたか」という、形質進化のノヴェルティー獲得についてである。そのため、研究対象は殆ど貝殻を持っているもの(二枚貝類や巻貝類など)に限定される。しかし現在まで、上流から下流までの網羅的解析がなかった為、貝殻形成に関わる主要生体分子の同定が難しく、その次段階である殻形成のメカニズム及びその進化についての議論が困難なのが現状である。 頭足類は軟体動物門貝殻亜門(Conchifera)に分類され、化石からアンモナイトのような絶滅している石灰化外殻を持った種が沢山居たことが伺える(図1)。しかし、オウムガイ以外の現生種は、この石灰性外殻を持っておらず、内殻や軟骨などの相同器官のみを持つものが殆どである(例:タコ=無殻;アオリイカ=非石灰性内殻)。このように、重要形質である鉱物性貝殻の退化の様々な段階が頭足類に見られる。これはバウプラン進化の理解には大変重要な研究材料である。また、頭足類の貝殻の喪失理由は、ペルム紀・三畳紀の境界(約2.5億年前)など過去に起きた地球温暖化と海洋酸性化と考えられる。従って頭足類は、海洋酸性化に対する適応進化を理解するための研究材料にも大変適している。 そこで本研究では、 (1) 頭足類の系統進化とそのタイムラインを明らかにすることと、(2) 石灰性貝殻を持った海洋動物の生体鉱物性の貝殻の形成に必要な主要タンパクを特定すること、を目的とした。本研究から得られた情報が海洋酸性化に対する能動的対応(順応と適応)メカニズムをミクロ・ゲノム・遺伝子レベルで調べることや、海洋酸性化に対して能動的対応をする軟体動物を保護するための評価システムの開発に役立つと確信している。 22。。 研研究究内内容容 2.1 頭足類八腕目の進化 本課題では、本研究で決定されたサンプルも含む頭足類のトランスクリプトーム(発現される全タンパク質コード遺伝子)データからミトコンドリアゲノム情報のみを生物情報学的手法で抽出し、その配列データを用いて分子系統ゲノム学的解析を行った。次いで、得られた系統樹や化石情報を参考に、分岐年代推定を行った。 その結果(図2):(1) 系統学的知見として、頭足類やイカ類(十腕目)とタコ類(八腕目)がそれぞれ単系統であること、オウムガイ類は頭足類の中ではベーザルな系統的位置にあること、がミトゲノムでも確認できたこと、(2) 系統進化のパターンから、薄い石灰性貝殻を持っているタコの仲間であるカイダコ類(図3)は、タコ類全体が貝殻を失くした後、二次的に貝殻を再獲得したこと、 (3)無殻の頭足類はペルム紀・三畳紀の境界に、内甲的殻を持つ頭足類はジュラ紀辺りに出現したこと、(4) 現生のタコ類は、パンゲア超大陸が幾つかの大陸に分離した時期であるジュラ紀〜白亜紀に種分化・放散したことが解った。 2.2 軟体動物門貝殻亜門の主要貝殻タンパク質の特定 本課題ではまず、オウムガイの貝殻のマトリックスタンパク質のプロテオーム解析及び、貝殻を形成する軟体部である外套膜のトランスクリプトーム解析を行い、それらのデータを照合し合うことで、頭足類オウムガイに図1.アンモナイト殻の化石.アメリカ自然史博物館で撮影。 図2.頭足類のミトコンドリア系統ゲノム解析及びミトコンドリアゲノムによる分岐年代推定による明らかになった頭足類の系統と進化。 図3.本研究で日本海側に採取されたアオイガイ(カイダコ類)。 −6−発表番号 3〔中間発表〕

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