2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
120/206

多多細細胞胞ササンンププルル内内ににおおけけるる遺遺伝伝子子発発現現11細細胞胞長長時時間間定定量量追追跡跡法法のの開開発発 東京大学大学院理学系研究科助教 吉村英哲 1. 研究の目的と背景 発生、分化、リプログラミングなどの生体高次機能や、ガン、神経変性疾患などの疾病は、少数細胞に確率論的に変化が生じ、その細胞を核として変化が周辺細胞に伝搬することで最終的に組織全体の変化を生む。近年RNAseq法など遺伝子解析技術の発展により、これら生体機能や疾患と相関がある遺伝子の網羅的な解析が進んでいる。しかしこれら生理機能や疾患の発現過程における同定された遺伝子の役割や因果律の解明は行われていない。この役割・因果律の解明には、その生理機能や疾患が発現する前から完了した後まで継続して標的遺伝子の定量追跡を行う必要がある。そのためには従来の破壊検査法によるRNAseqと異なる、生きたサンプルを対象とした長時間1細胞遺伝子発現定量法が必要となる。本研究ではこの課題の解決を目指し、多細胞ライブサンプルに対する1細胞解像度遺伝子発現長時間追跡法の開発を目標とする。 我々のグループではこれまでに二分割蛍光タンパク質とRNA結合タンパク質PumilioのRNA結合タンパク祠宇ドメインPUM-HDを用いた生細胞内RNA傾向下しかプローブを開発してきた。PUM-HDは特定の8塩基RNA配列を選択的に認識し結合するRNA結合ドメインである。PUM-HDの特筆すべき点は、部位特異的アミノ酸置換を施すことで、認識するRNAをテーラーメイドに設計・構築できることである。本研究では我々独自の技術であるPUM-HDを用いて遺伝子発現の一次産物であるRNAを標識可視化する手法を利用し、生細胞内の遺伝子発現を、サンプルを生かしたまま1細胞解像度で可視化追跡する技術を開発する。 2. 研究内容(実験、結果と考察) 本研究ではまずプローブのデザインを行った。プローブデザインに当たっては、申請者が過去に開発した二分割蛍光タンパク質を用いたRNA蛍光プローブの設計を参考とした。このプローブでは標的RNAの異なる2箇所の領域を認識する2種類の変異型PUM-HD(mPUM)を作製し、それぞれに二分割蛍光タンパク質のN末端断片、C末端断片を融合した。このプローブペアが標的RNAに結合すると、蛍光タンパク質二分割断片が互いに近接し再構成反応を生じ、蛍光性を回復するというものである。本研究ではこの二分割蛍光タンパク質部分を二分割発光タンパク質に置換し、生物発光を利用したRNA可視化プローブの構築を行った。発光タンパク質としては深海エビ由来の発光タンパク質NanoLuc(NLuc)を採用した(図1)。また、プローブ開発に当たっての標的RNAとして、蛍光プローブで可視化した実績のあるマウス由来βアクチンmRNAを対象とした。 図1プローブ設計 プローブ設計最適化のため、2種類のmPUMに結合する二分割発光タンパク質の断片の個数を変えて、標的RNA添加による発光値の測定を行った。その結果、複数個の二分割断片をタンデムに連結しても発光値に大きな変化は現れなかった。従って、今後の実験では2種類のmPUMにそれぞれ二分割NLuc断片を1つずつ結合したものを用いた。 次に標的RNAに結合した際に生じる発光を細胞内で検出できることを評価するため、生細胞にプローブを導入し、発光顕微鏡で発光の可視化検出を行った。用いた細胞はマウス繊維芽細胞由来細胞株NIH3T3細胞と、ヒト腎臓由来細胞株HEK293細胞を用いた。本プローブはマウス由来βアクチンmRNAを認識し発光するよう設計されているので、NIH3T3細胞では発光が検出され、HEK293細胞では発光が検出されないことが期待される。本プローブの発現プラスミドベクターをこれら細胞にリポフェクションにより導入し、96穴プレート上で培養した。プレートリーダーを用いて発光測定したところ、NIH3T3細胞において高い発光が検出された一方、−114−発表番号 57 〔中間発表〕 

元のページ  ../index.html#120

このブックを見る