2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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HEK293細胞ではNIH3T3の6分の1程度の発光しか検出されなかった。この結果から、本プローブは細胞内においてマウス由来βアクチンmRNAを選択的に認識し発光を示していることが強く示唆された。 最後に、顕微鏡下で1細胞からの発光を検出できるか評価するため、本プローブを発現したNIH3T3細胞を発光顕微鏡を用いて観察した。NIH3T3細胞にプローブの発現プラスミドベクターをリポフェクションにより導入し、グラスベースディッシュ上で培養した。得られた細胞サンプルを倒立型発光顕微鏡を用いて観察した。その結果、プローブを発現している細胞において、細胞質の発光が1細胞解像度で可視化検出できた(図2)。すなわち本プローブは1細胞サイズより高い空間分解能で生細胞内に存在する標的RNAの可視化検出を行う性能があることが示された。 図2発光顕微鏡を用いたNIH3T3細胞の観察。(左): 明視野像。(中): 発光像。(右): 重ね合わせ 3. 今後の展開(計画等があれば) 以上のように、これまでの研究で本研究課題における第一目標である、RNA発光プローブの構築はほぼ完成した。続いての研究では、本プローブの標的RNAに対する定量性や、RNAの増減に応じた可逆性を評価する。具体的には単離精製したプローブにたいし、試験管内での標的RNAの添加とRNA分解を行い発光値の変動を評価する。また細胞内では標的遺伝子発現を薬剤添加または光照射などの外部刺激により操作し、顕微鏡下における発光値の変動を解析する。これらプローブの性質は生細胞において長時間にわたる遺伝子発現量追跡に必須の性能である。評価の結果に基づきプローブの性質をフィードバックし、必要に応じてmPUMと二分割NLuc断片間のリンカー長の調節や二分割断片の分割位置の変更など、プローブ設計の最適化を行う。また、現在は開発のため、既に可視化した実績のあるマウス由来βアクチンmRNAを用いてプローブの性能評価を行っているが、他のRNAに対しても標的とし、本手法の汎用性についても評価する。これら手順を進めることで、プローブの定量性および可逆性について必要な性能を満たすものの構築を行う。また、より多くの細胞について同時に発光観察を実現するため、広視野・長時間観察に対応した発光顕微鏡システムを構築する。また、多くの細胞についてRNA量を定量解析するため、ウィルスベクターを用いてプローブ分子を培養細胞により均一に導入する手法を確立する これらプローブの性能評価・向上と多細胞同時観察システムの構築を並行して進めることで、本研究の最終目標である生きた多細胞サンプルに対する1細胞解像度遺伝子発現長時間追跡法の開発の実現を目指す。 4. 参考文献 Yoshimura H., Live Cell Imaging of Endogenous RNAs Using Pumilio Homology Domain Mutants: Principles and Applications., Biochemistry, 57, 200-208, (2018) 5. 連絡先(掲載してよい場合、住所、電話番号、E-mailアドレス等) 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学大学院理学系研究科化学専攻分析化学研究室 hideaki@chem.s.u-tokyo.ac.jp −115−

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