2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
125/206

図3. 化合物11 (黒), 22(赤), 33(青), 55(緑)の酸化状態における吸収スペクトル このことについて理論計算を行ったところ、螺旋のピッチ間における空間的な軌道の重なりが、この光化学特性の挙動に影響していることを突き止めた。実際、内側の置換基が2より小さい化合物5においても酸化状態において短波長シフトが観測されたことからこの解析が支持された。さらに、酸化状態の安定性について螺旋の外側の置換基の立体的な効果が重要であることを明らかにした。これらの結果は螺旋分子がその構造自体の伸縮に伴って酸化状態の光物性を変化させること、およびその原因を解明した初めてのものであり、外部刺激応答性などの螺旋分子の構造を積極的に用いた新たな機能材料の創出に繋がる重要な結果である[4]。 図4. 非対称アザヘリセンの結晶中でのパッキング構造 我々はさらに、アザヘリセンの外側の置換基を一つ変換することにも成功した。この手法を用いることで非対称な置換基をもつアザヘリセンの合成を次々と実現した。特に、電子受容性の置換基の導入により、大きな分極をもつヘリセンの合成にも成功している。ささらに、結晶中で置換基によって会合様式を制御でき、特にJ型の会合体を形成できることを明らかにした(図4)。本発表ではこの結果についても併せて報告したい。 3. 今後の展開(計画等があれば) 今年度の研究では、我々が開発した位置選択的置換基変換反応を巧みに活用することによって、アザヘリセンの螺旋ピッチの伸縮が光物性に影響を及ぼすことを見出した。このことはアザヘリセンの構造変化を酸化状態における物性を測定することによって検出できることを示している。今後はこの性質を活かし、圧力や機械刺激といった、分子自体の構造を変化させる刺激を用いることで物性が変化する、外部刺激応答性の創出を行っていきたい。また、現在、今回の報告では示さなかった、アザバッキーボウルの機能化についての研究も並行して進めている。異なる電子状態をもつ分子同士を組み合わせることによる結晶中内での配列制御について、一定の知見を得ており、次年度に報告できるよう、さらに研究を進めていきたい。 4. 参考文献 [1] K. Goto, R. Yamaguchi, *S. Hiroto, H. Ueno, T. Kawai, *H. Shinokubo Angew. Chem. Int. Ed. 22001122, 51, 10333. [2] H. Yokoi, Y. Hiraoka, *S. Hiroto, D. Sakamaki, S. Seki, *H. Shinokubo Nat. Commun. 22001155, 6, 8215. [3] A. Ushiyama, H. Shinokubo, *S. Hiroto Chem. Lett. 22001199, 48, 1069. [4] *S. Hiroto, submitted. 5. 連絡先(掲載してよい場合、住所、電話番号、E-mailアドレス等) 住所:〒606-8501 京都府京都市左京区吉田二本松町 京都大学大学院人間・環境学研究科 電話番号:075-753-6815 E-mail: hiroto.satoru.4a@kyoto-u.ac.jp 4.03.02.01.00.0ABS (normalized)24002100180015001200900600300wavelength (nm)−119−

元のページ  ../index.html#125

このブックを見る