2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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デディィララッックク電電子子系系物物質質にに創創出出すするる革革新新的的熱熱・・電電気気エエネネルルギギーー変変換換機機能能 名古屋大学大学院工学研究科 准教授 岡本 佳比古 1. 研究の目的と背景 固体中の伝導電子による熱輸送:熱電変換を用いて、電流により冷却する「熱電冷却」(ペルチェ冷却)と、温度差から電気エネルギーを得る「熱電発電」は、低温局所冷却や環境発電の応用にとって有望なエネルギー変換技術である。熱電冷却は、コンプレッサーを用いた通常の冷凍庫や冷房と異なり、フロン類などの冷媒ガスを使用しない全固体の電子デバイスによる冷却である。そのため、各種デバイスやセンサなどの冷やしたい場所だけを冷やす局所冷却への応用が期待される。熱電発電は、我々の身の回りにあるわずかな温度差や廃熱を利用し、排出物を伴うことなく発電できるため、太陽光発電などと並び環境発電応用にとって最適な発電技術の一つといえる。しかし、冷却・発電性能の向上が頭打ちであり、熱電冷却・発電の実用は、室温付近における赤外線センサの冷却や宇宙探査機の電源など、限られた用途に留まっている。 熱電変換の幅広い実用を阻んでいるのは、従来の設計指針により開発された実用材料のエネルギー変換性能の低さである。現在実用されている材料は重元素からなるナローギャップ半導体であり、1960年代に開発されたBi2Te3系などの古典的な材料が現在も使用されている。これらをはるかに超える高いエネルギー変換性能を示す新材料を開発できれば、熱電変換を様々な用途で実用できると期待される。より高いエネルギー変換性能を実現するためには、より大きな熱起電力と、低い電気抵抗率・熱伝導率を同時に達成することが必要である。従来の材料設計指針では、重元素の利用により格子熱伝導率を低減することに重きが置かれ、大きな熱起電力を得るという、より本質的な視点が手薄といえる。 本研究では、「スピン軌道ギャップが開いたディラック電子系物質」に着目することで、著しく大きな熱起電力を示す新材料の開発を目指す。電子バンドがフェルミ準位付近で交差するディラック電子系では、通常の半導体に現れる軌道混成ギャップの代わりに、スピン軌道相互作用に起因する極めて小さなバンドギャップが波数空間の低対称点に開く。この状況は、高縮重で非常に小さいバンドギャップをもつといえるため、室温から低温の領域において低い電気抵抗率と巨大な熱起電力が共存しうる。実際、我々が見出したTa4SiTe4ではこのような電子状態が実現しており、実用水準の低い電気抵抗率を保ちながら、400 V K−1に達する大きな熱起電力を、液体窒素温度付近において示した[1]。現在未踏の、−100 ℃以下の低温領域における局所冷却の実用に繋がる可能性がある。一方で、Ta4SiTe4は結晶構造の一次元性が強すぎることが原因で、バルクサイズの試料が得られていないという問題を抱える。既存の試料は太さ10 m以下のウィスカー形状であり(図1左)、通常数mm角のバルク材料が使用される発電・冷却素子に本試料をそのまま使用することはできない。そこで、昨年度は、I. 熱電変換材料候補物質Ta4SiTe4のバルク試料の合成・性能向上と、II. ディラック電子系の新材料探索を行った。 2. 研究内容 I. Ta4SiTe4バルク試料の合成と性能向上 バルクサイズのTa4SiTe4を得るため、気相成長法およびフラックス法による単結晶合成を試みた。その結果、気相成長法により、最大で数100 mの太さをもつ単結晶の合成に成功した(図1右)。現在、得られた結晶を用いて各種の物性測定を進めている。例えば、ホール抵抗の測定に成功し、本物質系のもつ高い熱電特性が、従来の熱電変換材料と比べて一桁低い1018 cm−3のオーダーのキャリア密度をもつにもかかわらず、低い電気抵抗率が保たれていることに起因することを明らかにした。Ta4SiTe4において、ある種のディラック電子系と呼べるバンド構造が実現していることが関係している可能性が高い。 熱電変換において実用材料の候補となるためには、一つの物質系においてp型・n型両方の高性能材料が得ら200 μm500 μm図1. Ta4SiTe4ウィスカー試料(左)と単結晶(右).−122−発表番号 61 〔中間発表〕 

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