2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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れることと、熱伝導率を低減するために同族元素による固溶体の合成が可能であることが必須である。本研究では、Ta4SiTe4とNb4SiTe4の固溶体試料を合成し、さらに固溶体試料においてp型とn型の両方の試料を得ることに成功した[2]。図2に、Ti置換したTa2Nb2SiTe4ウィスカー試料の熱起電力、電気抵抗率、出力因子を示した。Tiを1%置換した試料において、1 m cm程度の低い電気抵抗率を示しながら、200 V K−1を超える大きな熱起電力Sが実現していることがわかる。結果として、熱電変換素子の最大出力の目安となる出力因子P = S2/は最大で40 W cm−1 K−2と、Bi2Te3系の実用材料と同程度の大きな値となった。 II. ディラック電子系の新材料開拓 第一原理計算データベースAFLOWなどのデータベースを用いることにより、「スピン軌道ギャップが開いたディラック電子系」が実現する候補物質を複数見出した。そのうち、Ta2Pd3Te5とBaTiS3に着目し、焼結体試料の合成と熱電特性の評価を行った。Ta2Pd3Te5焼結体試料は、室温付近で約1 m cmと、熱電変換材料として適切な水準に低い電気抵抗率を示したが、熱起電力は最大で−20 V K−1の小さい値に留まった(図3)。熱起電力の温度依存性はTa4SiTe4とよく似た特徴的な振る舞いを示したため、Ta4SiTe4と同様の電子構造が実現している可能性がある。キャリア濃度が大きいことが原因で、熱起電力が小さい値に留まっていると予想される。今後、元素置換によりキャリア密度を低減し、熱起電力を増大させることに取り組む。 BaTiS3では、無置換試料とTiサイトをV置換した試料において、最大で200 V K−1程度の大きな熱起電力が観測された。しかし、おそらく粒界の影響や焼結性の悪さにより、室温付近で10 cm程度の大きな電気抵抗率を示し、現状では高い熱電変換性能は得られていない。今後、より高密度な試料や単結晶試料を作製することにより、本物質系が熱電変換材料として有望かどうか確かめる必要がある。 3. 今後の展開 本年度、I. Ta4SiTe4については、試料のさらなる大型化と、安定して大きい結晶が得られる合成条件の確立を目指す。II. 新材料探索については、Ta2Pd3Te5における元素置換によるキャリア密度の制御、BaTiS3焼結体試料の電気抵抗率の改善と、さらなる新材料の開拓に取り組む。 4. 参考文献 [1] T. Inohara, Y. Okamoto, Y. Yamakawa, A. Yamakage, and K. Takenaka, Appl. Phys. Lett. 110, 183901 (2017). [2] Y. Okamoto, Y. Yoshikawa, T. Wada, and K. Takenaka, Appl. Phys. Lett. 115, 043901 (2019). 5. 連絡先 e-mail: yokamoto@nuap.nagoya-u.ac.jp 403020100P (µW cm-1K-2)3002001000T (K)4002000S (µV K-1)Ti doped Ta2Nb2SiTe410-1100101102103104 (m cm)●Ti0.1%●Ti0.5%●Ti1%●Ti3%●Ti5%図2. Ti置換した固溶体Ta2Nb2SiTe4ウィスカー試料の熱起電力(上), 電気抵抗率(中), 出力因子(下).-20-100S (µV K-1)3002001000T (K)20100 (m cm)Ta2Pd3Te5図3. Ta2Pd3Te5焼結体試料の熱起電力(左)と電気抵抗率(右).−123−

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