2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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電電圧圧にによよるる高高効効率率ススピピンン制制御御にに関関すするる研研究究 東京大学物性研究所准教授 三輪真嗣 1. 研究の目的と背景 電子の電荷と同時にスピンの自由度を利用する「スピントロニクス」には大きな期待が寄せられている.具体的にはナノメートル程度の厚みを有する金属強磁性体と絶縁体の積層構造を有するスピントロニクス素子を用いた磁場センサーがハードディスクドライブの磁気ヘッドに応用されており,スピントロニクス素子を用いた不揮発性メモリの研究も産業界を中心に盛んに行われている.これまでスピントロニクス素子の動作原理であるナノ金属強磁性体のスピン制御は精力的に研究されており,アンペールの法則を利用した電流磁場でなく,1999年に発見された新たな電気磁気変換であるスピン移行トルクの利用が特に研究されてきた.しかし,スピン移行トルクは電流によるジュール熱の発散を避けられない.従って近年は電流ではなく,電圧によるスピン制御が注目されている(図1)[1-3].この電圧効果を用いればスピンを用いた不揮発メモリの超低駆動電力化を実現できる.具体的には書込の消費電力が1 fJ以下(C-MOSデバイス同等)でありながら,不揮発性を有する大規模集積メモリが実現する.そこでこの電圧効果の研究は注目を集め,近年は世界中で研究が行われている.一方で現状の電圧効果は応用レベルに対してはるかに小さい.現在実現している大きさ20 nmの不揮発性メモリを電圧効果で駆動するためには,現状比10倍の電圧効果,より具体的には磁気異方性エネルギーの電圧変調が必要である.世界中の様々な機関から電圧効果によるスピントロニクス素子を用いたデモンストレーションが行われているものの,依然として効果の大きさは発見当初のままである(30-100 fJ/Vm).従って,このままでは電圧効果の研究はその効果の小ささ故,頭打ちになることが目に見えている. 本研究では電圧による界面垂直磁気異方性変調量の増大を実現するための材料開発を行う.具体的には垂直磁気異方性及び電圧効果の増強が確認されているFeIr/MgO接合に対してX線吸収分光を行うことでその機構を解明し,得られた知見を元にして大きな電圧効果を示すデバイスを作製することを目的とする. 2. 研究内容 まずX線吸収分光用のサンプルを作製した.サンプル構造を図1(a)に示す.多層膜の構造は「MgO(001)基板/MgO下地層(3 nm)/Cr下地層(30 nm)/Fe (1 nm)/ Ir (0, 0.05, or 0.15 nm)/ MgO (2.5 nm)」である.各膜は電子線蒸着法を用いて超高真空下で成膜した.MgO(001)とCr(001)下地層は基板温度200 °Cで成膜し,成膜後に800℃で熱処理を施した.Fe層は200℃で成膜し,成膜後に260℃で熱処理を施した.Ir層と MgO層は基板温度を制御せずに室温で蒸着した.多層膜を全て積み終えた後,最後に350℃で熱処理を行っている.この図では設計構造はIrがFe/MgO界面に挿入されたFe/Ir/MgOとなているが,実際にはIr原子は成膜後の熱処理によりFe層中に一様に拡散しており,FeIr合金/MgO層となっている. X線吸収分光測定(X線吸収: XAS, X線磁気円二色性: XMCD)のFe吸収端測定は大型放射光施設SPring-8のBL25SUで行った.測定は全電子収量法,室温超高真空下で行った.XAS/XMCD測定のIr吸収端測定はFeの測定をほぼ同様であるがやや異なる設計の図2(b)のものを用意して行った.測定は同様に大型放射光施設SPring-8で行い,異なるビームラインのBL39XUで部分蛍光収量法により行った. 最後にX線吸収分光の結果を受けて電界効果効果測定用のデバイス作製及び評価を行った.ここでは「MgO(001)基板/MgO下地層(5 nm)/V (20 nm)/Fe (20 nm)/Ir (0-0.2 nm)/Fe(0-0.14 nm)/MgO (2 nm)」の構成を用いて,Ir層とMgO層の間にFeを非常に薄く挿入することによりIrの深さ位置を人工的に制御する作戦を取った. 実験結果の詳細は割愛し,助成研究成果報告で述べることとする.実験結果を簡単に説明すると,Fe及びIr吸収端のX線吸収分光からはサムルール解析[4,5]により磁気モーメントを元素別に同定可能である.実験結果を考察するとFeでなくIrが垂直磁気異方性エネルギーを中心に担うことが見出された.さらに理論計算結果を踏まえた考察すると,MgOから数えて2層目のIr原子が重要であることもわかった.この実験で用いた素子で−128−発表番号 63 間発表〕

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