2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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磁磁性性トトポポロロジジカカルル絶絶縁縁体体ヘヘテテロロ構構造造にによよるる室室温温ででのの量量子子異異常常ホホーールル効効果果のの実実現現 東京工業大学理学院 准教授 平原 徹 1. 研究の目的と背景 トポロジカル絶縁体はバルクが絶縁体であるが、表面に金属的なスピン偏極したディラックコーンを有し、時間反転対称性が破れない限りディラック点がトポロジカルに保護されており、ギャップを開けることができない。磁性を導入して時間反転対称性を破ると、ディラック点にギャップが開き輸送特性では無磁場下での量子ホール効果である、量子異常ホール効果(QAHE)が実現する。2014年にQAHEが初めて実験的に実証されてから多くの研究が行われてきたが、その実現温度は最大でも2 Kである [1]。QAHE由来の無散逸に伝導するエッジ状態をデバイスに応用するには、より高温でQAHEを実現する必要がある。 これまでトポロジカル絶縁体に強磁性を付加する方法として薄膜作製時に磁性不純物を導入する、という方法が行われていた。これに対し我々は最近、MnとSeをトポロジカル絶縁体Bi2Se3に蒸着すると、Bi2Se3の表面最上位層にMnとSeが潜り込むことでMnBi2Se4/Bi2Se3という、秩序だった磁性トポロジカル絶縁体ヘテロ接合を形成できることを明らかにした。これでは室温まで約100 meVという大きなディラックコーンギャップが観測された。さらにSQUIDによる磁化測定では面直の磁化曲線にヒステリシスが観測され、確かにディラックコーンギャップが磁性由来のものであることが明らかになった [2]。しかしBi2Se3ではフェルミ準位を制御する方法が確立されておらず、実際に輸送測定でQAHEを観測するのが難しい。そこでフェルミ準位の制御方法が確立されているBi2Te3に対して同様にMnとTeの蒸着を行い(この試料を以後Mn,Te/Bi2Te3と呼ぶ)、Bi2Se3と同じ現象が起きるかを検証した。角度分解光電子分光法でディラックコーンギャップの観測を行ったところ、15 Kで70 meV程度開いていたギャップが200 Kで閉じることが明らかになった [3]。本研究ではこのMn,Te/Bi2Te3の磁化特性を明らかにしてディラックコーンギャップとの関係を明らかにすることを目的にXMCD測定を行った。 2. 研究内容 (実験、結果と考察、将来展望) XMCD実験はSPring-8 BL23SUで行った。液体ヘリウムにより最低6 Kまで試料を冷却して測定を行った。Mn,Te/Bi2Te3試料は実験室で作成後表面保護のためにキャップしたものをBL23SUの超高真空装置に導入後、200-250度で加熱してキャップを飛ばすことで清浄表面を回復して行った。 図1(a)に6 Kで試料面直に8 Tの磁場を印加した際に測定されたXMCDスペクトルを示す。L3、L2吸収端ともに明確なシグナルが出ていることが分かる。図1(b)に示すようにXMCDスペクトルの形状は磁場を5 T、1 Tと下げても変化しなかった。しかし挿入図にあるように磁場を0.5 T以下にするとL3吸収端で変化が見られた。1 Tでは639.9 eVにピークがあったが(図中のA)、磁場を下げて0.2 Tにすると639.5 eV(図中のB)でもピークが見られるようになり、それ以下の磁場ではピークAよりもBが目立つようになった。これは磁性に寄与しているMn原子が2種類存在することを示唆している。さらに残留磁化におけるXMCDスペクトルは磁場印加時と逆向きであるという特異な振る舞いが観測された。そこでより詳細な知見を得るために、AとBのエネルギーにおける6 KでのXMCDシグナルの磁場依存性(図2(a))および0.2 Tでの温度依存性(図2(b))を測定した。 図2(a) に示すように、±3 Tの範囲での磁化曲線を測定すると、ピークAでは概ね磁場に対して磁化が比例する常磁性的な傾向が見られ、ピークBに関してはゼロ磁場付近でヒステリシスが観測され、強磁性的な振る舞いをすることが分かった。ただ上述の通り、残留磁化におけるXMCDスペクトルの符号が印加磁場を反対方向であったことを反映して、磁化曲線も負のヒステリシス(プロテリシス)であった(矢印が時計回りに回っているが、本当の強磁性体では反時計回りである) [4]。ピークAの方もゼロ磁場近傍で何か時計回りのシグナルの兆候が見られており、本来の意味の常磁性とは言えないかもしれない。図2(b)より、強磁性成分ピ−132−発表番号 65 

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