2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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リーマン多様体上の最適化手法に基づく対称性を備えたシステムの数理モデリング法の開発東京大学大学院情報理工学系研究科 講師佐藤 一宏1.研究の目的と背景システム同定とは入出力データから制御対象の数理モデルを構築することであるが,これまでに研究されてきたシステム同定法では対称性を備えたシステムの同定を満足にできないことがある.これは既存の方法の中にシステムの対称性を陽に考慮したシステム同定法が存在しないためである.対称性を備えたシステムの重要な例に,電力システムのような多数のサブシステムの状態が同期している大規模システムがあり,対称性を備えたシステムの同定法を開発することは重要である. 本研究の目的は対称性を備えた連続時間動的システムの数理モデリング法をリーマン多様体上の最適化法を用いて開発することである.従来は,特異値分解や主成分分析などをリーマン多様体上の最適化問題として定式化し,その解法アルゴリズムが構築されてきた.制御工学においてもリーマン多様体上の最適化手法を応用した研究はいくつか見られていたが,その数は非常に少なく,リーマン多様体上の最適化手法が制御工学にどこまで応用できるかは未知数であった.本研究によって,入出力データから対称性を備えた連続時間システムの数理モデリングが初めて可能になることに加えて,本研究の成果によってリーマン多様体上の最適化手法に興味を持つシステム制御工学の研究者が増えることが期待される. 2.研究内容(1)対称性を備えた連続時間動的システムの数理モデリング法の開発対称性を備えた連続時間動的システムに対応する離散時間動的システムを考えると,正定値対称行列が自然に現れる.従来のシステム同定法では,同定すべきパラメータ行列をベクトル化して扱うため同定結果が正定値対称性を持つとは限らなかった.それに対して,本研究の成果である参考文献[1]では,その正定値対称行列をリーマン多様体上の最適化法を用いて同定する方法を提案した(図1参照).その際に,ダイナミクスを表現する行列の3つ組が属す積多様体に対して直交群の作用を定義し,そこから定義される商多様体の幾何学を詳しく解析した.また,数値実験によって提案法の有効性も確認しており,図 2のような結果も得られている.すなわち,従来よく用いられているガウス・ニュートン法(GN method)では固有値が 0 以下になるが,提案法(Algorithm 2)ではすべての固有値が 0より大きくなっていることが確認できる.これは正定値対称行列が同定できていることを意味している.また,参考文献[2]の論文では,データが逐次的に得られる場合に正定値対称行列をリアルタイムに同定する方法を提案した. 図1:既存法と提案法の違い 図2:数値実験の結果 (2)グラフラプラシアンダイナミクスのモデリング法の開発グラフラプラシアンダイナミクスは対称性を備えた連続時間動的システムの典型的な例である.参考文献[3]では与えられた行列データからL1ノルムの意味で最−136−発表番号 67表〕

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