2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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も近いグラフラプラシアンを高速に構築する方法を提案した.これはグラフラプラシアンの性質を有するはずの行列を同定した際に,雑音などの影響で,グラフラプラシアンの性質を持っていない場合に適用できる方法である.また,提案法はネットワークのノード数をnとしたときにO(n^2)の計算量であるが,大規模な凸最適化問題を解く際によく利用される交互方向乗数法(ADMM)はO(n^3)となることも示した.さらに,数値実験によって図3のような理論をサポートする結果が得られた.すなわち,本研究の提案法によって,行列AからグラフラプラシアンLを構築すると実際のグラフラプラシアンL^*の固有値に近い結果になることが示された.図3:固有値の分布 (3)大規模システムのモデル低次元化法の開発システム同定によって得られた大規模な数理モデルを利用して適当な制御則を得ることは難しいため多くの場合低次元化する必要がある.参考文献[4]ではリーマン多様体上の最適化法を用いてH^2ノルムの意味で最適となるモデル低次元化法を提案した.その際に,安定行列が2つの正定値対称行列全体の集合と1つの反対称行列全体の集合との直積の要素から構成される行列で表現できることを証明した.このことから最適化すべき変数はリーマン多様体に含まれるとみなすことができるようになり,リーマン計量を導入し,リーマン多様体上の最適化法を利用することが可能になった.数値実験では,図4,5のようにシステム制御の分野で最も有名な平衡実現打ち切り法と比較し,提案法の有効性を示した.すなわち,図4は数値が小さいほど良い結果であることを意味するが,平衡実現打ち切り法(BT method)に比べて提案法が良くなっていることが示されている.また,図5では元のシステム(Original system)の線に近いほど良い結果であることを意味するが,提案法が最も近くなっていることが示されている.図5:ボード線図 3.今後の展開リーマン多様体上の最適化法を用いて正定値対称行列を同定できる方法を提案したが,計算量が大きいという欠点がある.アルゴリズムのさらなる効率化が今後の課題である.4.参考文献[1]K. Sato, H. Sato, and T. Damm: Riemannianoptimal identification method for linear systemswith symmetric positive-definite matrix, IEEETransactions on Automatic Control, 2020, to appear.DOI: 10.1109/TAC.2019.2957350[2]H. Sato, K. Sato:Riemannian gradient online identification methodfor linear symmetric continuous-time systems,58th IEEE Conference on Decision and Control,Nice, pp. 3593-3598, France 2019.[3]K. Sato: Optimal graph Laplacian, Automatica,Vol. 103, pp. 374-378, 2019.DOI: 10.1016/j.automatica.2019.02.005[4]K. Sato: Riemannian optimal model reduction ofstable linear systems,IEEE Access, Vol. 7, pp. 14689-14698, 2019.DOI: 10.1109/ACCESS.2019.28920715.連絡先東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻 Email: kazuhiro@mist.i.u-tokyo.ac.jp 図4:既存法と提案法のH2ノルムでの評価 −137−

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