2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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フフララスストトレレーーシショョンン磁磁性性体体をを用用いいたたテテララヘヘルルツツ帯帯のの非非線線形形現現象象のの開開拓拓研研究究課課題題 東京大学大学院工学系研究科 准教授 高橋 陽太郎 1. 研究の目的と背景 光で物質やその状態を制御するという研究の歴史は古く、特に可視光を用いた物質制御は応用も含めた観点から盛んに研究されてきた。その中でも、強的秩序である強磁性や強誘電性を光により制御するという試みは、基礎科学・応用の観点から大きな注目を集めている。近年テラヘルツ帯の技術発展により、テラヘルツ光を用いて物質を操作しようという研究が盛んになりつつある。近年様々な手法の開発により、テラヘルツ帯の現象を対象とした研究が盛んにおこなわれている。物質から見た場合、テラヘルツ帯は格子振動や磁気共鳴といった格子や磁性の応答が位置するため、李直接的な状態操作が可能であり、高効率化・高速性が期待できる。 本研究では磁性体のテラヘルツ応答に着目した。一般的な強磁性体はその磁化の運動に対応する磁気共鳴を示し、マイクロ波領域に共鳴を持つ。これに対し、反強磁性体や非共線的(ノンコリニア)な磁気秩序を持つ物質では、より高周波領域のテラヘルツ帯に共鳴を持つ。スピン間の相互作用が競合するフラストレーション磁性体では、ノンコリニアな磁気構造が現れることが多い。その中でも、スピンがらせん型の配置を取るらせん磁性体では磁性由来の強誘電性が現れることから、マルチフェロイクスとして近年盛んに研究されている。マルチフェロイクスでは、磁気共鳴が振動分極を持ち、エレクトロマグノンと呼ばれている[1]。エレクトロマグノンは光の電場に対する応答を示すため、光電場によるスピンを駆動が可能である。また通常の磁気共鳴に比べて、場合によっては100倍を超える共鳴強度を持つ。以上の点は、光で磁性を駆動したいという場合に大きなメリットとなる。我々は、エレクトロマグノンの強いテラヘルツ応答を利用することで、非線形領域の応答や、非線形過程のみで期待される磁化や電気分極のダイナミクスを実現することを目指している。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) テラヘルツ光により生じる非線形電気分極や非線形磁化信号を観測するための実験装置の構築について述べた後に、本研究で用いた試料について説明する。1 kHzの繰り返し周波数、800 nmの中心周波数、パルス幅100 fs、5 mJのパルスエネルギーを持つレーザーを光源として用いた。パルス面傾斜法により発生した高強度テラヘルツ光は放物面鏡により試料に集光される。テラヘルツ光の強度と偏光は、Siプレートとワイヤーグリッド偏光子により制御する。試料位置でのテラヘルツ光の電場強度と波形は、ZnTe結晶を用いた電気光学効果を用いて測定する。試料位置で測定したテラヘルツ光の電場波形を図1(a)に示す。テラヘルツ光の周期に相当する1 ピコ秒程度の周期で振動する電場波形が観測されている。電場強度の最大値は550 kV/cm程度である。また、この波形をフーリエ変換して得られるスペクトルは、1 THzを中心としたブロードな形状を持つ。この帯域に含まれるエレクトロマグノンの共鳴を励起することが可能である。本研究では、磁性の応答を観測するために試料表面から反射したプローブ光の偏光回転を検出する、磁気光学カー効果を用いた測定を行った。 テラヘルツ光による非線形応答実現のためには、物質の選定も重要になる。強磁性もしくはフェリ磁性体であり、らせん磁性構造に由来したエレクトロマグノンがテラヘルツ帯に存在することが条件となる。我々はY型ヘキサフェライトと呼ばれる物質群の中で、適した性質を持ついくつかの組成を見出すことに成功している[2]。本研究ではBaSrCo2Fe11AlO22をもちいた。この物質は室温で1 THz付近に比較的ブロードな線幅を持つエレクトロマグノン共鳴が存在する。この物質の磁化の過渡変化を磁気光学効果によりプローブし、非線形応答の観測を試みた。なお、測定は試料面直に磁化が生じた状態で行っており、テラヘルツ光の進行方向と磁化は平行である。 −142−発表番号 70 〔中間発表〕

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