2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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り、カソード光電流が得られたことから、新型PICSが起きる系を構築することに成功していることが示唆された(図2)。なお、このカソード光電流は、AgNPがないITO/NiO電極では観察されないことを確認している。またAgNPは、光照射下で粒子表面近傍に近接場光が発生するため、新型PICSではなく、単純に近接場光が酸化ニッケルの光励起効率を向上させている可能性も考えられたが、酸化ニッケルのみの光励起に由来する光電流とは方向が逆であったことから、得られた光電流は、AgNP/酸化ニッケル界面での電荷分離(新型PICS)であると結論した。 図2電解液中での担持酸化ニッケル光活性電極の光電流測定 ・全固体光電変換セルの検討 上記の結果を踏まえ、全固体光電変換セルの開発を行った。全固体化するに当たり、上記のカソード型光活性電極では電子輸送層が必要になる。そこで、AgNPと酸化ニッケルの配置を入れ替えた、アノード型の光活性電極(ITO/AgNP/NiO)を作製し、それから酸化ニッケルの上に対極として金を蒸着(またはスパッタ)することで、電子輸送層や、ホール輸送層を用いない、シンプルな構造の全固体光電変換セルを設計した。しかし、酸化ニッケルをスプレーパイロリシス法で成膜する際は、500℃での加熱が必要であり、そのままではAgNPが保持できない。そのため、まずはITO上にアルミナナノマスクを作製し、その孔にAgNPを電解析出することで、耐熱性を向上してから、酸化ニッケルの被覆を行った。作製した全固体光電変換セル(ITO/AgNP/NiO/Au)の光電気化学特性の評価を行ったところ、AgNPの有無によらずアノード光電流が得られたが、AgNPがある場合は、ない場合に比べて大きなアノード光電流が得られた。さらに、光電流アクションスペクトルを測定したところ、AgNPに由来する光吸収と概ね一致する形状が得られたことから、全固体光電変換セルにおいても、電解液系の場合と同様に、新型PICSに由来すると推察される光電流を観察することに成功した(図3)。 図3新型を利用した全固体光電変換セルの光電流効率アクションスペクトル 3. 今後の展開 全固体光電変換セルで新型PICS由来の光電流を観察することに成功したが、その変換効率は現状ではかなり小さいという問題点がある。酸化ニッケルの結晶性の向上や、AgNP/酸化ニッケル界面の接触面積・接触性の向上などに取り組むことにより、光電変換効率の向上を試みる。またCuNPや酸化イリジウム、酸化ルテニウムなど、金属ナノ粒子とp型半導体の、新しい材料の作製法の最適化や、組み合わせの最適化も同時に行う。新しい組み合わせを最適化することで、これまで試みてきたAgNPと酸化ニッケルの組み合わせを上回る光電変換効率が得られる可能性があると考えられる。これらの実験を通して、全固体光電変換セルの光電変換効率の向上および新型PICSのメカニズムの解明を行っていく予定である。 4. 参考文献 1) 高橋幸奈, 分析化学, 68 (10), 777-782 (2019). 2) Y. Takahashi, Y. Sota, T. Ishida, Y. Furukawa, S. Yamada, J. Phys. Chem. C, 112244, 4202 – 4205 (2020). 3) 高橋幸奈, 伝熱, 59 (247), 22-26 (2020). 5. 連絡先 〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡744番地 九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 物質変換科学ユニット TEL: 092-802-6699 FAX: 092-802-6699 E-mail: yukina@mail.cstm.kyushu-u.ac.jp AgNPAu(対極)NiOCBVBITOh+e-hnIPCEアクションスペクトルAgNP消失スペクトルITOAgNP電子アクセプターNiOCBVBh+hne-ITO/NiO/Electrolyte/Pt (Without AgNP)ITO/NiO/AgNP/Electrolyte/Pt (With AgNP)−145−

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