2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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超超高高性性能能圧圧電電微微小小超超音音波波イイメメーージジャャにによよっってて実実現現すするる 小小型型・・高高セセキキュュアア複複合合生生体体認認証証シシスステテムム 東北大学大学院工学研究科特任准教授 吉田慎哉 1. 研究の目的と背景 近年,ネットバンキングやショッピング,電子マネー,仮想通貨での決済が爆発的に普及しており,生体認証の重要性が急激に増している。その中でも,指紋センサはデバイスを薄化・小型化できるので,スマートフォン,クレジットカードやUSBメモリ,ドアノブなど,あらゆるものに搭載されつつある。しかし,その安全性は決して高くはなく,写真などから容易に偽造できてしまう。 そこで提案されているのが,複数の生体情報(例えば指紋と静脈)を独立に取得し,それらの照合結果を融合して認証する『複合生体認証』である。しかし,これを行うためには,それぞれの方式に適した装置を別々に用意しなければならない。結果として高価で嵩張ったものとなる。これでは指紋認証の利点が損なわれてしまう。 そこで本研究では,MEMSで作製した超音波撮像素子で指紋と血管を同時に取得する高セキュアな生体認証デバイスを創造する。 2. 研究内容(実験、結果と考察) 2019年度は,単結晶チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)薄膜を用いた圧電微小超音波トランスデューサ(pMUT) の一次元アレイ作製し,指皮下血管の画像化の可能性について検討した[1]。 まず,pMUTの一次元アレイをMEMS技術によって試作した。図1(a)に示すように,一次元アレイは各列に9個の素子を有する複数の列で構成されている。素子の直径は50 μm,アレイのピッチは70 μmである。また、単結晶PZT薄膜の厚さは2 μmである。pMUTアレイは,SOIウエハを用いた慣習的なプロセスで作製した。 ダイヤフラム構造は,SOIウエハのハンドル層を裏面エッチングすることで形成した。PZTには電圧を印可するためのAu電極パターンを形成した。目標共振周波数はフロリナートFC-70にて約10 MHzとした。図1(b)に示すように,電極をワイヤーボンディングしてpMUTアレイに電圧を印可できるようにし,駆動させた。 次に,このpMUTアレイを用いて超音波血管イメージングをデモした。このデモでは,7列のpMUTアレイのうち,中央の列は常に受信部として使用し,隣接する6列は送信部として用いた。送信部は,周波数10 MHz,振幅10 Vp-pの2サイクルのバースト信号によって動作させた。受信した信号はオシロスコープで収集し,PCに保存して超音波画像を構築された。 このイメージングデモでは,図2に示すようなポリジメチルシロキサン(PDMS)ベースのファントムを使用した。直径0.6 mmの毛管を1.2 mmから2 mmの異なる深さで模擬血管としてPDMS母材内に形成した。また、指紋の空隙が存在しても血管の画像化が可能かどうかを確認するために,疑似指紋として表面近傍に細い空気のチャネルパターン(ピッチ:〜0.6 mm、幅:0.2〜0.3 mm)を作製した。これらの構造体は,互いに直交させた。pMUTアレイは,ファントムの表面から約1mmの距離に配置され,横方向に1ステップ40 μmの機械的走査を行った。各ステップでは,背景ノイズを低減するために8回の平均化を行った。ビームフォーミングでは,実際の血管が指の表面下1.5mmに位置すると仮定して,焦点距離を2mmに設定した。 図3(a),(b)は,撮像した超音波画像と受信した超音波信号の一例である。4本の毛管がはっきりと観察されていることがわかる。毛管から斜め下方に伸びた帯状の線は,サイドローブに起因するアーチファクトと思われる。図3(b)のA-A'線上の毛管は,約18 dBの信号雑音比で撮影されている。回路やデバイス構造を工夫することで,信号雑音比はさらに改善されるだろう。 3. 今後の展開 2019年度では計画通り,疑似血管の一次元画像の取得に成功した。今後は,まず信号雑音比を改善するために,pMUT素子自体のデザインの最適化を行う。次に,指紋・動静脈ファントムを作製し,それらの独立した「二次元イメージング」をデモする。これにより,我々の構想の実現可能性を示す。並行して,画像の水平,角度,深さ分解能などを詳細に調査し,アレイのレイアウトなどを最適化する。ここでは,ディスクリート部品でシステムを構築する。ここまで首尾よく研究が進んだ場合,実際の人間の指を用いた実験にも挑戦する。 −146−発表番号 72〔中間発表〕

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