2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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(3)人口増加地域における土地利用変化 人口が著しく増加した住宅団地(27)と既成市街地(49)に該当する小地域を対象として,敷地単位にみる土地利用の変化を調査・分析した。その結果,住宅団地では大震災前は空地となっていた場所に戸建住宅が建設されている。既成市街地での土地利用変化パターン(1,746)は,「空地→戸建住宅」が469(26.9%)と最も多く,「空家→戸建住宅」も179(10.3%)みられ,低未利用地の活用が進んだことを把握できる。また,「戸建住宅→戸建住宅」も229(13.1%)と多く,建て替える形に加えて入居者が入れ替わる形が大半を占めており,原発事故の影響が表れている。その地域特性としては,低未利用地の住宅地化が進んだ地域15(30.6%),大規模マンションやアパートの集合住宅が複数建設された地域21(42.9%),両者が複合する形の地域13(26.5%)の3つに分類することができる。 (4)著しく土地利用が変化した小地域の地域特性 小地域単位での土地利用の変化数が平均+標準偏差(36+25=61)の値以上の「著しく土地利用が変化した小地域」は,5つある。その内容は,中心市街地に位置する地域では戸建住宅から空家,空地,駐車場などへの低未利用地化による中心市街地の空洞化の進行が土地利用変化数の多さに表れている。また,いわき駅の北側の第一種住居地域に指定される地域では戸建住宅から空地への変化が最も多い一方,戸建住宅から戸建住宅,空家から戸建住宅への変化など既存の小規模な賃貸の戸建住宅の居住者の変化が多くなっている。それに加えて,面積の広い空地と空家から集合住宅が建設されている。これら2つの小地域では,世帯数に対する人口増加数や性別にみる増加数に他の小地域と比較して異なる特徴をみることができる。一方,郊外の工業地域に該当する地域では空地から戸建住宅への変化が最も多く,集合住宅も建設されるなど空地からの変化が多い。具体的には,スプロール状に宅地化された地域に存在する空地に住宅が建設され,その一方で空地や駐車場への変化はみられない。この地域では世帯数に対する人口増加数が大きい。 このように地域特性や用途地域の違いにより,土地利用の変化パターンや人口,世帯数の変化が異なる。 (5)原発立地地域の地域構造の変化 第一原発立地後から事故発生前までの双葉八町村の地域構造の変化を分析すると,第一次産業を基盤とした事業所の集積や就業構造から,第二次および第三次産業部門の事業所の集積が進み,人口や就業構造も大きく変化してきた。このような社会構造の変化に対応するように道路整備が進み,市街地も拡大してきた。計画書の分析からも,豊かな自然の中で培われてきた文化や歴史を基盤として,新たな産業を受け入れて変化してきたまちの姿を共通して捉えることができる。 (6)復旧・復興事業の進捗と地域構造の変化 先行して避難指示が解除され,復旧・復興が進む広野町において,事故前の地域構造とその変化を調査・分析した。2015年の人口は4,323で,2010年と比較したその回復率はおよそ80%である。63の小地域のうち13地域(20.6%)で人口が増加しており,10地域は新規住宅整備地域である。このうち8地域では,男性の単身世帯を中心に増加しており,該当地域を現地調査してみると,宿泊施設やプレハブ宿舎が建っている。 復興事業計画では,広野駅東口と本町の間にある事故前は農地・未利用地であったところに「復興ゾーン」が指定され,既成市街地を除いて点在する既存集落を含む農地・未利用地が広がる地域を「住宅ゾーン」として広く指定している。さらに,その他の地域を「森林ゾーン」としており,人口が増加した小地域の大部分はこの「森林ゾーン」に指定されている。 3. おわりにいわき市内を対象とした市街地変化や浜通り地域の特に広野町を対象とする環境変化に関する調査・分析の結果,小地域単位でみることにより同じ都市・地域内でモザイク状に人口と土地利用が変化していることが明らかとなった。ここでは,市街化調整区域や都市計画区域外において人口や世帯数が増加していたり,中心市街地の空洞化が進行していたりなど,人口と土地利用の変化が相補関係を構築することができていない地域を多くみることができる。そのため,人口や産業の集積を支える都市施設の立地・整備もふまえた,社会構造と空間構造が相補関係を構築する変化パターンへと転化させていくことが,持続可能な市街地整備にむけて必要である。 4. 参考文献 1)齊藤充弘,2018年10月,原子力発電所事故避難者受け入れ等に伴う都市計画への影響について-人口と土地利用変化に着目した福島県いわき市を対象として-,2018年度日本都市計画学会学術研究論文発表会論文集Vol.53-3,pp.919-926 2)齊藤充弘,2019年10月,原発事故発生前からの地域構造の変化をふまえた復興計画の課題に関する研究,2019年度日本都市計画学会学術研究論文発表会論文集Vol.54-3,pp.1395-1402 5. 連絡先 E-mail:mitsuhiro@fukushima-nct.ac.jp −157−

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