2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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農農山山村村地地域域のの持持続続可可能能なな居居住住区区モモデデルルななららびびににエエネネルルギギーーシシスステテムムのの在在りり方方 横浜国立大学大学院環境情報研究院 教授 鳴海 大典 1. 研究の目的と背景 三大都市圏への大規模な人口流出を生じた結果として農山村地域では過疎高齢化に伴う地域衰退が深刻化しており,今後も更なる衰退が確実視されることから,地域・生活の質の維持を可能とする地域再設計の必要に迫られている.本研究は農山村地域の低炭素化を軸として,農林業イノベーションを主導とする地域経済の活性化,物販・医療・教育などの都市サービス機能の改善によるQOL 向上など,一次産業から三次産業までを幅広く包括的に捉え,相互の依存関係や連関を考慮した上で地域課題の解決を図る新たな居住区モデルとエネルギーシステムの在り方を提案するものである. 本研究では農山村における現状の生活状況やエネルギー消費の実態調査,CO2排出予測モデル世帯の設計,森林資源の活用可能性に関する評価,居住環境評価に基づいた地域再設計シナリオの構築等を行なってきた1)2)3)4).本報告では引き続き,散在過疎集落の集約強度を変えたシナリオを複数提案し,CO2削減効果および行政コストに与える影響を検討した結果を報告する. 2. 研究対象地域 調査対象地域は和歌山県日高圏の一部である日高川町とした.日高川町は2005年に川辺町(川辺地区),中津村(中津地区),美山村(美山地区)が合併したものであり,総面積は332km2と県内3番目の面積を有するが,約9割を山林が占める典型的な中山間地域である.総人口は約10,200人,世帯数は約4,150世帯であり,昭和30年から人口の社会移動が急速に進み,近年では自然減が加速しつつある. 3. 地域再設計シナリオの概要 散在過疎集落の集約による効率化を目的として,2050年を目処とした日高川町の地域再設計シナリオを複数作成した. 「BAUシナリオ」:全町民が現在の居住地に住み続けることを想定した現状推移型のシナリオである.人口は自然および社会移動により減少を続けるとともに,世帯が0にならない限り,当該行政区は存続する. 「町内移住シナリオ(1~3)」: BAU同様,人口減少を続けるが,集約化により孤立地域を減らすことを目的としたシナリオである.一定世帯未満もしくは高齢化率が50%を超えた行政区は150世帯以上の行政区へ移住する.なお,本研究では集約強度の違いによるCO2削減効果を検討するため,町内移住1~3の移住対象となる行政区は順に10,20,30世帯未満と設定した.上記のシナリオに基づき, 2050年までの人口・世帯推計をコーホート要因法により推計した.行政区の集約状況に関する一例を図1に示す.人口推計の結果,BAUシナリオ,町内移住シナリオともに2015年より約6,500~6,900人減少することが明らかになった. 4. CO2排出量の推計 CO2に関しては,家庭内及び日常移動にかかる消費エネルギーに関連する排出量を以下に述べる手順に基づき推計した.家庭内エネルギー消費量に関しては,下田ら5)による家庭用エネルギーエンドユースモデルを用いて住宅類型・世帯構成別のボトムアップシミュレーションを行う.住宅類型については伝統的農家住宅(3区分)と一般住宅(6区分)の床面積9区分,世帯構成については19区分とし,断熱性能や空調・給湯熱源なども含めて全5,130類型で月・用途・エネルギー種別のエネルギー消費量を求めた.なお,建物寿命ならびに町内移住,Iターン移住による住宅の建替えや新築を考慮し,更新時には次世代基準の一般住宅とした.日常の移動エネルギー消費量に関しては,筆者らによる日高川町内のPT調査結果(有効回答数447件)を基にして,世帯人数別の平均自動車保有台数および居住地区別の1人あたり平均走行距離を算出した.保有台数の対象は普通車および軽自動車(軽トラックを含む)とした.なお,エネルギー消費量の算出には自動車燃料消費量統計年報による走行1kmあたりの燃料消費量0.086[ℓ/km]を用いた. 以上の方法に基づき,日高川町全体の家庭内および日常移動におけるCO2排出量を推計した結果を図2に示すと,家庭内より日常移動におけるCO2排出量が大半を占めている.2015年時点から比較するとBAUシナリオは全体で10,599[t-CO2]減少する一方で,1人あたりでは0.08[t-CO2]増加する結果となった.しかし,町内移住シナリオ1~3全て全体および1人あたりで減少する結果 −164−発表番号 80 〔中間発表〕

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