2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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再再生生可可能能エエネネルルギギーーのの市市場場統統合合ををどどうう進進めめるるかか 京都大学大学院経済学研究科 特定講師 中山 琢夫 1. 研究の目的と背景 エネルギーに関して持続可能な経済社会を展望するためには、原子力にも傾斜せず、なおかつCO2を排出しない、再生可能エネルギーの大幅導入が不可欠である。そのためには、固定価格による価格買取段階を卒業して市場統合する道筋が必要になる。 さらに、電力市場に再生可能エネルギーが流入することで、とりわけ短期のスポット市場における約定価格が従来とは異なったものになってくる。このスポット市場による価格シグナルは、再生可能エネルギーの電力市場統合に大きな意味を持つ。 本研究の目的は、日本における再生可能エネルギーどのように再生可能エネルギーを市場統合させていくか、という課題に対する道筋を構築することである。 2. 研究内容 本研究では、電力自由化が進展し、再生可能エネルギーが電力が盛んに市場取引されているヨーロッパにおける市場設計を中心にサーベイすることで、今後日本の取るべき方向性を示す。 再生可能エネルギーの導入コストの低減およびその技術進歩は、伸びしろとされる変動性電源において顕著であり、ヨーロッパにおける新規導入においても10年前の状況とは大きく異なっている。本研究では、まだ日本では起こっていないような今日的な状況を把握するため、現地でのヒアリング調査に加えて文献サーベイを中心におこなった。 本研究で対象としたのは、主として北欧のNord Pool(ノルドプール)の電力市場設計、ドイツとデンマークの電力市場設計の比較分析、および新たな市場プレーヤーとしての仮想発電所(VPP:Virtual Power Plant)の台頭である。 【Nord Poolの電力市場設計】 ヨーロッパにおける電力市場の先駆けとして、北欧のノルウェーに拠点を置くNord Poolがしばしば取り上げられる。その設立から発展経緯については、2016年4月になってようやく電力の小売全面自由化がなされ、2020年4月に発電部門と送配電部門の法的分離が完了したばかりの日本における電力市場にとっても多くの示唆に富んでいる。 Nord Poolは、創設後一貫してその取引量を増やしている。それは、市場に参加する国や地域の増加だけではない。直接的にはグロス・ビディングの導入が契機となって北欧諸国の電力消費におけるシェアが一気に高まった。取引量を増やしているもう一つの理由は、相対取引に比べてリスクが低いという理由である。2009年のリーマン・ショックでは世界経済が停滞し、電力需要量も減少しているが、Nord Poolにおける取引量や、その電力消費量に占めるシェアはほとんど減少していない。 Nord Poolで取り扱われる電源は、2018年の時点で火力・原子力・水力・太陽光・風力・その他再エネ電源であるが、もっとも多いのは水力(53.6%)、次いで火力(33.4%)、風力(13.5%)、原子力(12.4%)、太陽光(1.0%)となっており、原子力よりも多い発電容量の風力発電がこの卸電力市場で取引されていることが分かる。 【ドイツとデンマークの電力市場の比較】 風力発電や太陽光発電といった変動性の再生可能エネルギーの導入は、どうしても天候に左右されやすい。そのためには柔軟性(フレキシビリティ)の確保が重要になってくる。柔軟性とは、電力需給の変動に柔軟に対応することを意味している。再生可能エネルギーの導入先進国であるドイツでも、安定供給と柔軟性の担保は大きな焦点となっており、2014年から進む電力市場改革の中で、この課題に対処するために大きく分けて二つの策が検討された。 図1に示すように、ヨーロッパにおける電力市場は、大きく分けて三つの市場で取引される。第一に、長期的なリスクをヘッジする金融市場としての先渡(先物)市場、電力の現物を短期的に取引するスポット市場としての前日市場・当日市場、当日市場がゲートグローズしたのち、実働時の需給を一致させるために調整を行う調整力市場(需給調整市場)である。 −168−発表番号 81

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