2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
175/206

図1 Nord Pool エリアにおける電力市場の全体像 先渡市場は、デンマークではNasdaq、ドイツではEEX等が取り扱っている。前日市場・当日市場は、ド イツやデンマークではNord Pool、EPEX-SPOT等複数の取引所が取り扱っている。先渡市場やスポット市場(前日・当日市場)は、同一国・地域内で、複数以上の取引所が運営する場合もしばしばある。一方調整力市場は、各国・地域の送電事業者(TSO:Transmission System Operator)が実施する 変動性の再生可能エネルギー導入先進国のドイツとデンマークの電力市場設計について比較評価を行った結果、デンマークの方がより市場を活用しながら電力システムの安定性を柔軟に担保するような制度設計が行われているということが示唆的である。再生可能エネルギーの変動や需給調整は、TSOよりもむしろスポット市場を通じて自主的に行われうると確信されていることが、変動性の再生可能エネルギーの拡大を後押ししていると言える。 【新たな市場プレーヤーとしての仮想発電所(VPP:Virtual Power Plant)】 VPP (バーチャル発電所)とは、自ら物理的な実際の発電所を所有することなく、比較的小規模分散型の発電所と契約し、発電する電力をまとめて、卸電力市場や需給調整市場で直接取引する主体のことを指す。VPPにはさまざまな事業形態があり、既存の屋根上の太陽光発電パネル用の蓄電池を販売して顧客コミュニティを形成するものもあれば、事業用の太陽光発電所・風力発電所・バイオガス発電所・水力発電・非常用電源などを顧客に持つものなどが見受けられる。 ドイツにおいてVPPと呼ばれる主体が顕著に表れるようになった背景には、再生可能エネルギーの固定価格買取制度における調達価格が安くなり、グリッドパリティが指摘されるようになったとともに、2012年の再生可能エネルギー法改定により、再生可能エネルギー発電による電力も、直接市場取引することが推奨されたことがある。比較的小規模な再生可能エネルギー発電所は、単体では卸売電力市場や需給調整市場には参画できない。そこで、それらをまとめて直接市場取引する、直接市場家とも呼ばれるVPPが必要になった。 再生可能エネルギーの急速な成長と商業的な成功を成し遂げるための要因は、二点に要約される。第一に、発電された電力をアグリゲートして、様々なスポット市場で販売することと、第二に、発電側と需要家側の両方の柔軟性を、需給調整市場とスポット市場で最適化することである。発電事業者・需要家はいずれも、こうした市場価格に対応することで、ベネフィットを得ることができる。 3. 今後の展開 ドイツやデンマークと比較して、日本の再生可能エネルギー導入率はまだまだ低い。日本では、先渡・先物市場、一日前・当日市場、需給調整市場、容量市場なさまざまな市場が乱立しているが、再生可能エネルギーの効率的な主力電源化のために、どのように整理してゆくべきかについては今後の重要な課題となる。とりわけ、一日前・当日市場の今日の大きな変化の動向には、注目してゆかなければならない。 4. 参考文献 ・東愛子(2019)「柔軟化電力市場の構築:デンマークとドイツの電力市場制度の比較分析」諸富徹編著『入門再生可能エネルギーと電力システム:再エネ大量導入時代の次世代ネットワーク』日本評論社、57-83頁。 ・小川祐貴(2019)「電力市場の仕組み:北欧の電力市場Nord Poolを例に」諸富徹編著『入門再生可能エネルギーと電力システム:再エネ大量導入時代の次世代ネットワーク』日本評論社、35-56頁。 ・中山琢夫(2019)「電力市場に分散型電力と柔軟性を供給するVPP(バーチャル発電所)」諸富徹編著『入門再生可能エネルギーと電力システム:再エネ大量導入時代の次世代ネットワーク』日本評論社、85-106頁。 5. 連絡先 〒606-8501 京都市左京区吉田本町 E-Mail: nakayama@econ.kyoto-u.ac.jp 出所:小川(2019) −169−

元のページ  ../index.html#175

このブックを見る