2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
178/206

アアジジアア的的なな社社会会保保障障・・福福祉祉シシスステテムムのの数数理理モモデデルル化化ととそそのの比比較較::77 かか国国ででのの「「私私的的なな相相互互援援助助」」のの実実態態にに着着目目ししてて 立命館大学産業社会学部教授 江口友朗 1.研究の目的と背景この数十年の間に多くのアジア諸国では高齢化社会に突入することは,よく知られている。 しかしながら,これら諸国は,歴史的に先行した欧米諸国とは異なり,未だ更なる社会経済発展を必要とする中で,同時的に,より充実した高福祉社会へと変貌することにも取り組む必要性に迫られている。 また,このアジアの福祉・社会保障の整備を巡っては,地域研究・開発研究分野を主として,またディシプリンとして社会学や政治・政策学で,1990年代以降には,次第に議論される様になってきた。しかしながら,これら学術的知見からは,社会保障諸制度が欧米諸国と比較して相対的に未整備,または整備途上にある中での状況,つまりは,公的な制度がなき中で,どの様な形で人々が支えあっているのかという状況について理解しえない。 これら諸背景を踏まえ,本研究は,特に,従来から議論されてきた公的社会保障システム・諸制度を介した所得再分配メカニズムとは異なる,またはそれと異なる形で,つまりは,私的な関係性(親・子・親戚などの血縁や友人・恋人等の親密圏)を基盤とした金銭的な相互援助が,家計レベルで行われている実態を示すと同時に,それらが経済的に看過しえない規模にあることを,制度の経済理論の見地から実証的に示すことを主目的として実施した。 2.研究内容(実験、結果と考察)本研究では,前述の目的を達成するための仮説として,まずは,本財団で先行して得た「若手奨励研究」での成果,つまりは,アジアの特にタイにおける「私的な相互援助」の実態を仮説とし,これがタイに限られた実態であるか否かを問うことを主たる課題として展開した。 仮仮説説 ①タイでは, 平均総収入に対し,タイで約2割,韓国で5%程度(支援する場合には2割程度)に当たる金額が,「私的な金銭援助」にあり,家計の経済規模で看過できないが,同様の状況がアジアの他国でもみられるのか。 ②前述の仮仮説説①「私的な相互援助」の実態が確認される場合,具体的な金銭的フロー・ネットワークやその背景を巡って,諸国間での共通点ないし相違点は見られるのか。 方方法法 これら2つの仮説を検証するべく,まずは,仮仮説説①に対しては,この「私的な金銭的援助」が,統計等での公表されているデータからはその実態が明確にならないことを踏まえ,現地での個票調査(直接対面式・郵送回答方式の併用)を実施した。その上で,仮仮説説②に関しては,仮説①の検証のために得た個票データを代表的な数理解析手法を用いることで,各国での特徴を析出することとした。 結結果果 以下では,紙面の関係上,また調査結果として統計上の優意性をある程度示したと思われる代表的な国での特徴的な結果を公表する形としておく。 表1仮説①の結果 上図から,以下のことが分かる。まず,日常的に誰か他の家計(outside of household)の者に対して金銭的な支援をしている者は,4カ国いずれにおいても存在すると共に,韓国を除く3カ国では,いずれも被験者の半数近くに上ることを強調しておきたい。また,国毎のサンプル数に相違があるため,あくまでケーススタディとしての位置づけになるが, その金銭的規模に−172−発表番号 83

元のページ  ../index.html#178

このブックを見る