2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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注目すると,いずれの国でも被験者の家計での平均収入の2割程度が私的な金銭の援助であり,家計レベルでは,一定の所得再分配機能を有している可能性も示唆できる。 また,逆に,(a)日常的に誰か他の家計の者から金銭的な支援を受けている者も,カンボジアとタイでは約半数おり,特に,カンボジアでは,家計の平均的な収入に占める割合も4割近くになっている。このことは,私的な援助が,家計収入にとって重要な意味を持っていることを示している。加えて,韓国を除くタイ,カンボジア,インドネシアの3カ国では,(b)他者から金銭支援をしてもらい,自分が第三者に支援をしている者,つまり,自分が他の誰かから金銭的支援を受けつつも,自分が得た金銭を他の違う人に渡しているという者の姿も確認できる。特にカンボジアの場合には,タイと類似しており,そうした者の数も約2割程度みられる。こうした状況からは,私的な金銭のやりとりが社会的に広範にネットワーク化している可能性も類推できる。 有有意意水水準準>>00..0055をを満満たたししたた結結果果 タタイイ イインンドドネネシシアア 韓韓国国 女性は援助されない傾向男性は援助を受けない傾向歳~歳の年齢では援助を受けない傾向子供がいない人は援助を受けない傾向男性は援助しない傾向二次産業従事者は援助を受けない傾向一次産業従事者は援助する傾向未婚者が援助する傾向表2仮説②の結果例 上記表2は,特に,前述の仮説①の(b)で得た結果に基づき,私的な「金銭的な相互援助」の主たる担い手や「他者から金銭的援助を受ける」「他者へ金銭的援助をする」という行為の相互関係と、これら行為と各属性との関係性,つまりは,どういった人が援助を受け、また援助をするかを,本研究が独自に得た個票データを用い,<ロジスティック解析:従属変数/他者から金銭的援助を受けるか or 他者へ金銭的援助をするか,独立変数/性別,年齢,職業,結婚,子供の有無、出身]を行った結果をまとめた表である。 またこれに加え,<χ二乗検定>も実施することで,以下2項目について,特に析出できた。 各国に関する数理解析結果を巡る共通点として,(a)一般に所得獲得能力の低いと思われる主体ほど,援助を受けており,かつ援助をしない(女性が援助を受けており男性が受けていない傾向・若年層と高齢層が援助を受けており,そして援助しておらず,30・40代の中間的年齢層が援助を受けないこと,(b)また援助をする傾向・無職を含む、一、二、三次産業の何れにも属さないと解答した人が援助を受けている傾向(タイ、インドネシア))がある。それゆえ,インフォーマルなやり取りに基づく金銭も、"上から下へ"の再分配の傾向があることも明示しえる。このことは,私的な金銭的な相互援助が単に儀礼的行為の意味の範疇には収まらない役割・機能を有していることを特に示唆しておきたい。 3. 今後の展開(計画等があれば) 本研究では,少なくても,アジアの一部の国では,私的な関係に基づく所得移転,つまりは金銭的な相互援助が公的な社会保障諸制度と共に所得再分配機能を有していることを実証的・数理的に確認した。今後は,この結果をより広義な形で,つまり,社会経済システム全体でのより適切かつ効果的な福祉・社会保障政策に資する形で昇華させる作業を考えている。 4. 参考文献 Eguchi. T., Arissara. S., and Ando. Y.,(2017) 「A Comparative Analysis of Aspects of Private and Autonomous "Mutual Assistance Payments" in Asian Countries: Its Economic Role and Income Redistribution Function in Thailand, Cambodia, South Korea, and Indonesia」『Proceedings of the International Conference on Education, Psychology,and Social Sciences』vol. 2/ No. 1, pp. 114-129. 江口友朗(2020)「アジア諸国での私的な金銭的相互援助を巡る制度論的試論:タイ・インドネシア・カンボジア・韓国の実態から」『経済科学』67/ 3, pp. 1-12。 5. 連絡先 京都市北区等持院北町56-1立命館大学 t-eguchi@fc.ritsumei.ac.jp −173−

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