2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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新規動的不斉変換法による光学活性アミノ酸の合成 京都大学化学研究所 助教 岩本 貴寛 1. 研究の目的と背景 光学活性アミノ酸は基礎科学だけでなく,創薬などの産業界においても最重要化合物のひとつであり,これらの高効率,高選択的合成法の確立は極めて重要である。現在,アミノ酸の合成手法としては,発酵法や酵素法などが知られているが,非天然アミノ酸を合成する手法としては化学合成法が最も優れている。これまでに,様々な不斉合成反応が開発され,実用化に至る反応もある一方で,これらの合成法では特異な原料が必要であるなど必ずしも十分な合成法とは言えない。 本研究課題では,従来とは異なる光学活性アミノ酸の合成法の開発を目的として,ラセミ体であるアミノ酸を一方の光学活性アミノ酸へと変換する動的不斉変換法の開発を検討した。本反応では,光触媒とキラルな遷移金属触媒を用い,アミノ酸の脱炭酸と引き続く不斉カルボキシル化により望みの動的不斉変換法が進行すると考えた(図1)。上記反応はアミノ酸のラセミ混合物と二酸化炭素という有り触れた原料から光学活性アミノ酸を生成するものであり,「単純な化合物から有用物質を生み出す」という合成化学における基本的命題への挑戦でもある。 図1. 動的不斉変換法による光学活性アミノ酸の合成 なお,本研究開始後に,Jamisonらにより同様の反応設計に基づいたアミノ酸合成が報告された1。彼らの反応では、光触媒としてターフェニルを用いることでα-アミノラジカルと二酸化炭素ラジカルアニオンが生成し,それらのラジカルカップリング反応によりアミノ酸を与える。しかし,このようなフリーラジカル間のカップリング反応ではエナンチオ選択性の制御は極めて困難であり,将来的に不斉合成へと展開することは難しいと考えられる。 2. 研究内容 目的の反応は光触媒によるアミノ酸の酸化サイクルとキラル遷移金属触媒による不斉カルボキシル化サイクルから成り,実現の鍵は後者の不斉カルボキシル化過程である。近年,二酸化炭素用いたカルボキシル化反応の研究開発が盛んに行われているが,不斉反応へと応用した例は限られており2,本反応は合成化学的にも極めて挑戦的なものと言える。 そこで,まず本反応の妥当性を調べるために,アキラルな遷移金属触媒による光学活性アミノ酸のラセミ化実験を行った。光学活性アミノ酸から一電子酸化と脱炭酸によりα-アミノラジカルが生成した後,アキラルな遷移金属触媒による非選択的なカルボキシル化が進行すれば,基質のラセミ化に繋がると考えられる。種々の検討を行った結果,基質としてN-Boc-proline(20:80 er),触媒として[Ir(dtbbpy)(ppy)2]PF6とNi(dtbbpy)Cl2を用いた際,完全なラセミ化が観測された(図2)。これは想定した通り,反応系中で望みのα-アミノラジカルの生成と引き続くカルボキシル化が進行していることを示唆している。 図2. 光学活性アミノ酸のラセミ化実験 本反応系において,触媒のスクリーニングを行った結−12−発表番号 6〔中間発表〕

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