2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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再生可能エネルギー普及に向けた需要・供給サイドの研究:日独比較を通じた経済分析 早稲田大学政治経済学術院教授 有村 俊秀 1. 研究の目的と背景 パリ協定の採択を受け、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃未満にすることを長期目標と設定した。SDGsでは「気候変動に具体的な対策を」、それに関連して「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」という目標が掲げられ、気候変動対策としての再生可能エネルギーの導入が喫緊の課題として認識されている。再エネ導入が遅れている我が国での普及を促進させる要件を解明するため、「地域コミュニティのWellbeingに配慮した再生可能エネルギー促進策の経済分析」として貴財団より助成を受け、再エネ、とりわけ風力発電の阻害要因を解明した。環境省の助成を受けたプロジェクトでは、地熱発電の促進要因に関する分析を行った。これらの研究では、地域コミュニティとのコンフリクトが阻害要因になっており、普及のためには合意形成のプロセスが重要であることを解明した。そこで本研究では、地域住民との合意形成を獲得しながら再エネ導入を進めてきたドイツの地方自治体を調査し、どのように地域コンフリクトを克服してきたのかについて分析を行い、日本の再エネ導入の促進に活用させることを目的する。 一方、導入の遅れは需要サイドからも大きな影響を受けている。日本では電力自由化が進んでも、消費者が再エネ起源の電力を選択しない。一方、ドイツでは再エネを含む電力を選択する家庭が多い。本研究では前課題では全く取り扱わなかった需要サイドに着目し、日本の消費者にアンケート調査を実施する。調査によって、再エネへの選好を高めることが可能な情報提供の要件を明らかにすることで、需要サイドからの再エネ促進に関する方策を検討する。本研究ではドイツでの先行事例 (Ziegler, 2019) を参考にしながら、需要・供給両サイドから分析を行い、日本における再エネ導入の促進・阻害要因の解明を試みる。また、需要・供給サイドとも分析には、ドイツ・カッセル大学と連携しながら研究を進める。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 上述の通り、日本における再生可能エネルギー導入に関する促進・阻害要因はいまだ不明瞭である。また、促進・阻害要因の解明だけでは、導入促進には寄 与できない。そこで本研究では、選択型実験と呼ばれる質問形式を用いた消費者選好調査を実施することで、電力プランの決定要因の解明を行う。決定要因として、月額料金、化石火力や再生可能エネルギー、原子力の組み合わせを示した電源構成、月額料金、発電所の所在地、発電事業者を設定した。また、社会規範意識(ピア効果)が省エネ行動へ有意に影響を与えることを実証的に示したArimura et al. (2016)を参考に、他者(友人、同僚、地域住民)の電力選択が回答者本人の電力プラン選択に与える効果についても検証を行う。具体的には、最も親しい知人や友人を5人思い浮かべてもらい、その5人の中で、自然エネルギー(FIT電気、再生可能エネルギー)の比率が高い電力会社や電気プランを利用している人が何人いるかどうかを聞いた。 上の方法では需要家の選択に注目したが、エネルギー政策は需要側、供給側の両サイドを考慮する必要がある。本研究では、供給サイドからの再エネ促進策として、再生可能エネルギーの導入が先進的であるドイツの地方自治体を訪ね、地域住民の社会受容性をどのように確保したのかヒアリングを行うことで定性的に分析を行う。 以上のよう問題意識をもとに、調査会社のマイボイスコム のアンケートモニターに対し、2020年3月にインターネット調査を行い、家計の電力選択について情報収集を行うと元に、選択型実験を行った。その結果、1,322名の家計のミクロデータを入手することができた。その際、性別、年齢階層、地域の代表性が確保されるように配慮してデータ収集を行った。なお、本調査の回答者を家計の意思決定者に限定した。現在の所、記述統計の分析を行い、以下のことが示された。 調査の結果、家計の7割は電力会社・プランの変更を行っていないことが分かった(図1)。電力自由化が進み、再エネ電力がでてきたのは2016年以降であることを考えると、現実に再エネを選択している家計は少ないことがうかがえる。 −174−発表番号 84 〔中間発表〕

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