2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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森森林林生生態態系系ににおおけけるるココウウモモリリ類類のの環環境境指指標標生生物物化化にに関関すするる研研究究 東京大学大学院農学生命科学研究科 助教 福井 大 1. 研究の目的と背景 近年の我が国の森林政策は,森林生態系保全に配慮した森林施業が一層重視される方向にある(林野庁 2018).したがって,森林利用の影響を定量的に評価し,経済活動と森林生態系保全の両立を図ることは,持続可能な社会の構築に不可欠である. 経済活動の影響評価を生態系や生物多様性の保全政策に組み込むには,指標生物を用いるアプローチが有効であると考えられている.指標生物に適した分類群は,生物多様性や物質循環に影響を及ぼす環境ストレス因子に敏感であり,生息場所の生物相を代表して,測定可能な応答を示すものである.その中で最近,コウモリ類が指標生物として極めて有効である可能性が提唱されている(Jones et al. 2009). 本研究の目標は,野生生物の生息・生育環境の保全を考慮した森林施業方法や森林環境の維持創出に向けた基盤情報を提供すると同時に,コウモリ類を用いた汎用性のある環境評価の枠組みを構築することである.そのために,各種施業による森林利用によって植生改変が起きている森林生態系を対象に,環境変化に対するコウモリ類の感受性を評価することで,各種森林施業方法をコウモリ類の視点から評価すると同時に,指標生物としての有効性と汎用性を生態学的に検証する. 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 1)コウモリ類の音声ライブラリーの構築 2016年から2018年にかけて,東京大学北海道演習林内および周辺でコウモリ類を捕獲し,放逐の際の飛翔時音声を録音した. 3年間で2科11種264個体のコウモリ類を捕獲し,飛翔時音声を録音した.収集された音声は,過去に収集されたものと合わせて,データベースソフトウェア(File Maker Pro)によって,種名,性別,捕獲場所,捕獲日時の情報と共にまとめられた. 2)コウモリ類の音声による種判別法の構築 1)で収集した音声ファイルからエコーロケーションパルスを検出し,フーリエ変換をかけ,検出した音のスペクトログラム画像を生成(図1)し,さらにデータオーグメンテーションを行い,オーグメーションデータベースを構築した.このデータベースを用いて,畳み込みニューラルネットワークを使用した深層学習によって識別機を構築した.この際,データの90%を学習データ,10%を評価データとすることで10分割交差検証を行い,識別精度を検証した. 以上のデータベースで学習を行い,識別精度を検証した結果,平均F-valueが95.4%であった.また,種判別の一般的な精度であるノイズ以外のOverall accuracyでは 98.1%と高い値を達成した.過去の研究例と比較しても,種数および判別率ともに大きく上回っており,畳み込みニューラルネットワークがコウモリ類の音声種判別にとって有用であることを示す.ただし,実用化に耐えうる精度を達成していない種も見られ,これらは学習に使用した画像数が少なく,学習が十分でなかった可能性がある.今後,学習用データを増やしていく必要がある.現時点では種までの判別を行うと誤判別の可能性が高いために,次項「3」の図1 各ギルドごとのエコーロケーションソナグラム −178−発表番号 85

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