2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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研究ではギルドまでの判別に止めることとした. 3)森林施業とコウモリ類の活動量の関連性の評価 東京大学北海道演習林において,施業方法の異なる森林4タイプ(保存林,天然林択伐施業,針葉樹人工林施業,風害後の二次林)を選び,計12箇所の調査プロットを設定した.各プロットにおいて,音声自動録音装置によって各月連続10晩前後の音声モニタリングを6~9月にかけて行なった.録音された音声は,音声解析ソフトウェア上でソナグラム化した.さらに採餌ギルドごとに分別し(図1),それぞれの録音回数を活動量とした. 調査期間中に12箇所で延べ720晩の音声モニタリングが行われた.この期間中に自動録音装置によって録音された音声ファイルは162,921ファイルであり,そのうちコウモリの音声が記録されていたものは70,438ファイルであった. 各ギルド,季節による活動量を詳細に検討したところ,森林タイプの違いによってコウモリ類の活動量が変化することが明らかになった(図2).さらに,その変化の仕方がコウモリ類のギルドによって異なることも明らかになった(図3).つまり,活動しているコウモリ類の構成が森林施業の影響を受けるということである.今回対象とした択伐施業(択伐林)と人工林施業(人工林)および皆伐施業(二次林)で考えると,保存林と比べた場合には全ての施業でコウモリに対する負の影響が見られたものの,択伐施業がもっとも影響が小さかった.つまり,北海道演習林で行われている天然林択伐施業が,野生動物に対する負荷が比較的小さい施業方法であることを示唆する.また,本研究によって,コウモリ群集が森林環境の指標として有効であり,コウモリが日本全国に分布していることから汎用性を有していることが示唆された. 3. 今後の展開 本研究の中で,現時点で未達成のものとして,1)北海道演習林のコウモリ種を高精度で音声種判別するアルゴリズムの構築,2)種ごとの森林タイプ間の活動量の違いを明らかにすること,3)活動量に対して影響を及ぼすより詳細な環境変数(施業方法,材積,樹木種数,樹木多様性,胸高断面積,平均樹高,標高,斜度,斜面方向:これらはすでに整備済み)の影響を評価する,ことが挙げられる.今後は,これらを達成するべく研究を続けていく.また,他の気候帯や,異なる森林施業を行っている地域で同様のモニタリングを行い,汎用性についてさらに検証していく. 4. 参考文献 林野庁. 2018. 平成30年度版 森林・林業白書 pp.326. 全国林業改良普及協会 Jones, G., Jacobs, D., Kunz, T., Willig, M., & Racey, P. (2009). Carpe noctem: the importance of bats as bioindicators. Endangered Species Research, 8, 93–115. 5. 連絡先 北海道富良野市山部東町9-61 東京大学北海道演習林 fukuidai@uf.a.u-tokyo.ac.jp 図2 森林タイプ・月ごとのコウモリ全体の活動量 図3 森林タイプ・ギルドごとの活動量 −179−

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