2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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南南海海地地震震をを見見据据ええたた土土佐佐湾湾砂砂泥泥底底のの生生物物群群集集のの保保全全とと再再生生にに関関すするる研研究究 高知大学教育学部 教授 伊谷 行 1. 研究の目的と背景 土佐湾沿岸域は、来たる南海地震において、甚大な被害を受けることが想定されている。沿岸生態系は,地震および津波によるインパクトを受けるばかりでなく、震災復興事業の影響を受けると考えられるが、土佐湾砂泥底生態系の知見は限定的である。また、すでに津波等対策工事のために干潟の環境改変が行われている。東北大震災においては、震災前に干潟環境と生物相の調査が行われており、津波の前後での生物相の変化や回復過程を克明に研究することができた。そこで、土佐湾砂泥底の生物群集の保全と再生をめざして、本研究では土佐湾の干潟の生物群集の定量調査を行った。また、特に、生物群集の鍵となる、生物の巣穴における住み込み共生の解明を目指した。さらに、生物群集の加入過程を明らかにするため、土佐湾の支湾である須崎湾を対象に、浮遊の幼生の調査も行った。 図1 すでに南海地震対策として改変される干潟と調査地点。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) ・高知県の干潟の生物相調査 干潟域の生物群集を明らかにするために、環境省のモニタリングサイト1000の方法を用いて高知県各地の干潟で定量調査を行った。今後、日本各地の干潟の状況と比較可能なベースラインデータを得ることができた。また、各地の定性調査もふくめて生物相の把握を行なったっところ、環境省海洋生物レッドリストに絶滅危惧II類(VU)として掲載されているカニ類のウモレマメガニ、準絶滅危惧(NT)として掲載されている二枚貝類のスジホシムシモドキヤドリガイ、高知県レッドデータブックで情報不足(DD)とされている南方系のカニ類ヒメメナガオサガニとブビエスナモグリを採集し、その分布記録をまとめることができた(邉見ほか 2019など)。さらに、高知県浦ノ内湾から採集されたスナモグリ類が、これまで化石からのみ報告されていたオオスナモグリであることが確認された。化石に残らない顎脚の形態などから、新属Laticallichirusを提唱した(Komai et al. 2019)。 図2 高知県浦ノ内湾よりオオスナモグリの発見 ・干潟における住み込み共生 条件的に共生を行うことが知られているテッポウエビーツマグロスジハゼ間に、どのような利害関係があるのかを野外観察から調査した結果、両者の関係は緊密ではないものの、ツマグロスジハゼは巣穴を利用することにより隠れ家を得て、テッポウエビはハゼが近くにいると野外行動を活発に行うことができることが明らかになった(投稿準備中)。宿主であるテッポウエビの巣穴形態は、浅いものの広がりがあり、複数の巣穴入り口を有していることが明らかになった。複数の巣穴口は本種が巣穴のメンテナンスや採餌活動のために野外活動を行うことを容易にしていると考えられた(Henmi et al. 2017a)。ツマグロスジハゼとテッポウエビの巣穴内における行動をメソコズム実験により巣穴形態から推定したところ、テッポウエビの巣穴はツマグロスジハゼが共生しない場合は、巣穴の深さや長さなどにテッポウエビの甲長との相関が認められた。−180−発表番号 86

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