2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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すなわち、巣穴はテッポウエビの生態にとって不可分な生態的特徴を有しており、巣穴形質はテッポウエビにとって延長された表現型であることが確かめられた。一方、ツマグロスジハゼが共生する場合には、先に認められた相関関係が消失した。ツマグロスジハゼは、巣穴外活動から戻る際にも巣穴入り口を破壊することが認められることから、巣穴内でも巣穴構造を破壊している可能性が高いと考えられた。このように条件的共生のエビーハゼ関係には、明らかに共生関係にとって洗練されていない特徴があることが明らかになった(Henmi et al. 2020a)。 図3テッポウエビの巣穴形態 図4テッポウエビとツマグロスジハゼの条件共生 アナジャコ類の巣穴に住み込むカニ類トリウミアカイソモドキの巣穴内行動を、人工巣穴を用いて観察したところ、宿主のヨコヤアナジャコが行う排除行動を避ける適応行動が観察された(Henmi et al. 2017b)。 自由生活種と考えられていたハゼ類のアベハゼによる甲殻類の巣穴利用を調査した。その結果、石や貝殻などの構造物の少ない干潟では、隠れ家のひとつとして甲殻類の巣穴を利用すること、水槽観察からその利用はごく一時的であり、宿主の排除行動を受けることが明らかになった(Henmi et al. 2020b)。 アナジャコ類・スナモグリ類の巣穴を利用するエドハゼは環境省レッドリストに絶滅危惧II類(VU)として掲載されている。そのハゼ類の生態に関して、九州大学の研究者が過去に行ったポリエステル樹脂による産卵場の鋳型形態を精査したところ、産卵巣はニホンスナモグリの排出口に限って作られており、やや巣穴径を広げる改変が行われていることが明らかになった(Henmi et al. 2018)。 ・調査船を用いた調査 須崎湾において、ヒモハゼの仔稚魚の分布調査を行なったところ、6月と7月にのみ仔稚魚が出現し、その分布は湾内に限られることが明らかになった。本種は湾外への分散を行わないか、分散したとしてもごくわずかであることが示唆された(投稿準備中)。 3. 今後の展開 本助成金を得て高知県における干潟調査を行ったことにより、今後の調査のベースラインとなる定量的データを得ることができたばかりではなく、多くの新記録種を採集することができた。干潟の群集構造の核となる「住み込み共生」を行う生物について、片利関係から相利関係までのさまざまな種間関係と適応進化について、その一端を示すことができた。干潟の生物群集のモニタリング調査は、従来の堆積物の表層だけの調査ではなく、巣穴を形成する生物とその共生者を重視した、ヤビーポンプなどを用いた調査の実施が望ましい。 4. 参考文献 Henmi et al. 2017a: Zool Sci, 34, 498-504. Henmi et al. 2017b: J Crust Biol, 37, 235-242. Henmi et al. 2018: Ichthyol Res, 65, 168-171. 邉見ほか 2019: 日本ベントス学会誌, 74, 35-40. Henmi et al. 2020a: JEMBE, 527, 151379. Henmi et al. 2020b: JEMBE, 528, 151383. Komai et al. 2019: Zootaxa, 4604, 461-481. 5. 連絡先 伊谷行(itani@kochi-u.ac.jp) −181−

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