2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
188/206

北北海海道道にに侵侵入入ししたたアアズズママヒヒキキガガエエルルがが水水域域のの生生物物群群集集にに与与ええるる影影響響 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター 准教授 岸田 治 1. 研究の目的と背景 ブラックバスやアライグマなど,外来種といえば外国から持ち込まれた種(国外外来種)に象徴されるが,外来種は外国から来たものだけではない.日本国内においても本来の分布域とは異なる地域へと人為的に移入された種が多くおり,それは国内外来種と呼ばれる.人や物資の往来は国内において盛んであり,意図しない生物の移動は国内で生じやすい.つまり,国外外来種に比べ,国内外来種は移入のリスクが高いと考えられ,その影響についても把握する必要がある.しかし,国外外来種と比べ国内外来種の研究は圧倒的に少なく,影響の実態はほとんど明らかになっていない. 本研究では,北海道の国内外来種アズマヒキガエルに注目した.本州原産のアズマヒキガエル(以下ヒキガエル)は,旭川,札幌,函館など道内各地でみられる.最近我々は水槽実験で,北海道の在来のエゾアカガエルとエゾサンショウウオの幼生が孵化したばかりのヒキガエルを食うと中毒死することを発見した.ヒキガエルは成体がブフォトキシンと呼ばれる神経毒を保持することが知られていたが,卵(胚)や幼生もまた同様の物質を保持し,捕食者に対し毒性を発揮するらしい.果たしてこの毒性効果は野外においてどれほどのインパクトを持つのだろうか? 本研究では,野外の在来両生類に対するヒキガエルの影響の実態を明らかにすることを第一の目的とし,操作実験と調査を展開した.さらに,将来,北海道の在来両生類(エゾアカガエル,エゾサンショウウオ)がヒキガエルとどんな関係を構築するのかについても洞察を得るため,本州でヒキガエルと長きにわたり共存してきた近縁種(ヤマアカガエルとクロサンショウウオ)のヒキガエル毒への耐性について調べた. 2. 研究内容 1)野外池での囲い網を用いたエンクロージャー実験 野外池に80㎝×80㎝の囲い網を10個設置し,エゾアカガエル幼生,エゾサンショウウオ幼生を入れた後,半数の網にはヒキガエルの卵を入れ(ヒキガエル区),残りの網には入れなかった(対照区)(図1). 実験の結果,ヒキガエルはエゾサンショウウオの生存に対しはっきりとした影響を与えなかったが,エゾアカガエルに対しては壊滅的な影響を与えることが明らかとなった.ヒキガエル区ではヒキガエルの卵が孵化してからわずか一週間ですべてのエゾアカガエルが死んでしまったのだ(図2). 図1.囲い網を使った実験の様子 図2.エンクロージャー実験の結果 その後の実験により,エゾサンショウウオはヒキガエル毒への耐性がいくらかあるため,ヒキガエルの影響が顕著に現れにくいことが分かった.一方,エゾアカガエルは毒耐性が著しく低く,またヒキガエルを食べやすい生態をもつため,ヒキガエルから大きな影響を受けることが明らかとなった.エゾアカガエルは,1匹がヒキガエルを食べだすと他の個体も寄ってきて一緒に食べたり,中毒死した個体の遺骸を食べることで連鎖的に死んでしまうのである. 2)池を丸ごと使った実験 続いて,エゾアカガエル幼生に対するヒキガエルの影響の一般性について検証することを目的とし,環境条件の異なる15の池(エゾアカガエルがいない)を使った実験を行った. 0204060805/306/96/196/297/95/21エゾサンショウウオの数ヒキガエルありヒキガエルなしヒキガエルなしヒキガエルあり010203050405/306/96/196/297/95/21エゾアカガエルの数−182−発表番号 87

元のページ  ../index.html#188

このブックを見る