2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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5月下旬にこれらの池のうち9つの池でヒキガエルが産卵したが,残りの6つの池では産卵しなかった.この段階で全ての池に100~400尾のエゾアカガエル幼生を放ち,全滅が起こるかを調べた.ヒキガエルの産卵があった9つ池では,ヒキガエルの孵化直後に5つの池でエゾアカガエルが全滅し,それ以外の池でも個体数が著しく減ったが,ヒキガエルの産卵がなかった池では,エゾアカガエル幼生の数に目立った変化はなく,全滅することはなかった. 3)大規模な野外調査 自然池でのエゾアカガエル幼生の全滅の起こりやすさとヒキガエルの産卵との関係を調べるため,2018年,2019年の2年にわたり大規模な調査を実施した.2018年には73の池でエゾアカガエル幼生の消長とヒキガエルの産卵の関係を調べた.池のエゾアカガエル幼生は干上がりや捕食を受け全滅することがたびたびあるが,その全滅率がヒキガエルの産卵の有無により大きく異なっていることが,本調査からわかった.ヒキガエルの孵化時期にあたる5月下旬から6月上旬にかけてのエゾアカガエル幼生の全滅率は,ヒキガエルの産卵がなかった池では18.6%(59池中11池)だったのに対し,ヒキガエルの産卵があった池ではその3.8倍の71.4%(14池中10池)にも及んでいた.2019年の調査においても同様の結果が得られた. 4)原産地の捕食者を用いた毒耐性の比較 将来,エゾアカガエル、エゾサンショウウオはヒキガエルに対抗できるようになるのだろうか? ヒキガエルと長きにわたり共存してきた本州の近縁種(ヤマアカガエルとクロサンショウウオ)の特徴を知ることで,この疑問への洞察が得られる.我々は,ヤマアカガエル,クロサンショウウオ,エゾアカガエル,エゾサンショウウオの複数の地域集団を対象に,ヒキガエル孵化胚を餌として与えた場合と,餌を何も与えなかった場合とで,幼生の生存率と成長率を比較した.まず,クロサンショウウオとヤマアカガエルはヒキガエルを食っても死なないこと,さらには餌がない場合よりも良く成長することが明らかとなり,原産地のヒキガエル捕食者はヒキガエル毒に対して高い耐性を保持していることがわかった(図3).この結果は,将来エゾアカガエルやエゾサンショウウオもまた毒耐性を進化させることを予感させる.しかし,そのような適応はエゾアカガエルでは簡単には起こらないかもしれない.実験では,エゾサンショウウオにはヒキガエルを食べても生き残る個体が多くの集団でみられたが,エゾアカガエルはどの集団でもヒキガエルを食った個体は必ず死んでしまった(図3).つまり,エゾサンショウウオには毒耐性が高い個体がおり,ヒキガエルとの相互作用の下でもそのような個体が生き残ることで毒耐性が進化しやすいが,エゾアカガエルでは毒耐性が低すぎて,ヒキガエルと相互作用したときに生き残る個体がほとんどおらず,自然選択がかかりにくいと考えられた. 図3.ヒキガエル孵化胚を食べた捕食者の生存率 3. まとめ 本研究では,国内外来種アズマヒキガエルがエゾアカガエルに対し,池にすむ幼生を頻繁に全滅させるほどの甚大なインパクトを与えることを明らかにした.日本のような島国において生物種は島ごとに独自の進化を遂げている.たとえ日本国内であっても他の島から導入された種に対し,在来種は対抗手段をもっていないかもしれない.国内・国外問わず,外来種は在来生態系に対して想定外の影響を及ぼしかねないと言えるだろう. 4. 参考文献 KazilaE. & Kishida O. (2019) Foraging traits of native predators determine their vulnerability to a toxic alien prey. Freshwater Biology64:56-70.Oyake N., et al., Kishida O. (2020) Comparison of susceptibility to a toxic alien toad (Bufo japonicus formosus) between predators in its native and invaded ranges. Freshwater Biology65:240-252.5. 連絡先 北海道苫小牧市字高丘 北海道大学 苫小牧研究林 Tel:0144-33-2171 E-mail: kishida@fsc.hokudai.ac.jp幌加内旭川苫小牧えりも岩手新潟佐渡福島埼玉岐阜050100エゾアカガエルヤマアカガエル生存率(%)幌加内生存率(%)旭川苫小牧えりも新潟佐渡福島岐阜050100エゾサンショウウオクロサンショウウオ−183−

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