2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ミミャャンンママーーのの伝伝統統的的林林業業生生態態系系ににおおけけるるアアジジアアゾゾウウととのの共共生生のの実実態態とと課課題題 九州大学大学院農学研究院 教授 溝上 展也 1. 研究の目的と背景 地上最大の陸上哺乳類であるゾウは減少し続けており,特にアジアゾウ(Elephas maximus)の減少は著しく,絶滅危惧種に指定されている.アジアゾウは古くより家畜化され,木材の集材・運搬やエコツーリズムにおいて利用されてきており,人間生活と深いつながりがある.家畜化アジアゾウの頭数は約15,000頭といわれており,野生ゾウ約50,000頭と比較しても少なくなく,その適切な利用と保全が求められている. ミャンマーでは160年以上前からアジアゾウを集材作業に利用しているが,その利用の実態や生活・行動様式は十分に明らかにされていない.そこで本研究では,ミャンマーの伝統的林業地において,GPS軌跡計測などにより,アジアゾウの利用・行動様式の実態を定量化し,絶滅の危機に瀕しているアジアゾウの適切な利用と保全に向けた課題を提言することを目的とした. 2. 研究内容 調査対象地はミャンマーの伝統的林業地として有名なBago地区とKatha地区である. <<ミミャャンンママーー式式林林業業にによよるる土土壌壌攪攪乱乱へへのの影影響響評評価価>> 4つの林班において,林道(丸太を土場から林班外へ運搬するためのトラック道),土場(丸太を一時的に集積する場所),集材路(伐倒された場所から土場まで丸太をゾウよって集めるための道)について,土壌攪乱の面積および面積率を計測・推定した. ミャンマー択伐方式(MSS)での土壌攪乱の面積率(%)を他国での慣習的な伐採方式(CON)と他国での低インパクト伐採方式(RIL)での報告と比較すると,林道と土場では、MSS,CON,RILの間に有意差はみられなかった(図1).一方,集材路については,MSS(0.9%),CON(8.5%),RIL(5.4%)の間で有意差がみられ,ゾウを集材に利用するミャンマーMSSがブルドーザなどの重機を利用する他国の集材とくらべて,著しく土壌攪乱面積率が小さいことが分かった(図1). ゾウ集材による土壌攪乱面積率が他国の機械集材路のそれと比較して著しく低いのは,集材路の延長は前者が88.4m/ha,後者が89.2m/haと同等であるのに対して,集材路の幅が前者で平均1.0m,後者で平均5.4mと,ゾウ集材路の幅がかなり狭いことが理由として考えられた. 図1ミャンマー林業方式(MSS),伝統的伐採方式(CON)と低インパクト伐採方式(RIL)における林道,土場,集材路の土壌攪乱面積率 <<ミミャャンンママーー式式林林業業にによよるる残残存存木木へへのの影影響響評評価価>> 林道や土場の造成時や集材作業に伴い,周辺の残存木が倒されたり,傷が付いたりして損傷を受ける.この周辺残存木への損傷の程度を現地調査と統計モデルにより評価した. 林道,土場,集材路それぞれで得たデータを用いて,激害(severe damage),軽害(slight damage),損傷なし(no damage)の有無を目的変数,残存木の胸高直径(cm, DBH)を説明変数とした多項ロジステック回帰モデルを構築した.また,伐採強度(haあたりの伐採本数)と残存木損傷率との関係を推定した. その結果、林道と土場では,激害は小さいサイズの樹木で多く,サイズの増加とともに激害は減少し,一方,軽害は増加する傾向にであった.集材路については,サイズ依存性はみられず,激害はわずかでほとんどが軽害であった.損傷なしの樹木の割合はサイズ依存性が顕著でなく,林道,土場,集材路,それぞれで約80,50,80%の割合であった(図2). 本研究で得られた伐倒時の損傷率と伐採強度との関係式は,他国で報告されているデータの傾向と同等であったが,集材路については小さい傾向にあることがわかった.これは,ミャンマーでのゾウによる集材作業では,ゾウは残存木を避けるように丸太を運搬することができるためと考えられる. −186−発表番号 89

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