2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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熱帯・亜熱帯アジアにおけるシロアリ食の小型脊椎動物群集の自然史解明と炭素循環への影響 京都大学大学院 地球環境学堂准教授 西川完途 1. 研究の目的と背景 熱帯・亜熱帯の動物の中で最大級のバイオマスを誇るシロアリを地中性の両生類や爬虫類がどれくらい捕食しており、果たしてシロアリ食に特化した種がいるのか、マレーシア・サラワク州と沖縄において調査を行った。その結果、両生類のヒメアマガエル科、ヌマガエル科、ヌメアシナシイモリ科、そして爬虫類ではスキンク科から、地中性または半地中性でシロアリを高頻度で捕食している種の存在していることが明らかとなり、トカゲに関しては新種記載を行った。上記の結果は、地中性の両生類や爬虫類相はフロンティアであり、シロアリへの物質循環の大きさも全く解明されていないことを示しており、世界的にみても大きな発見であると言える。 2. 研究内容(調査結果と考察) 初年と2年目と、マレーシア・サラワク州と沖縄において野外調査を行った。サラワク州では、クバ国立公園、ランビル国立公園、ムル国立公園で網羅的に地中性または半地中性の爬虫両生類の探索を行った。捜索は手鍬や熊手を用いて土壌を掘り返したり、ピッケルで腐朽した倒木を破砕したりして行い、同時にピットフォールトラップとフェンスとラップを併用したトラップの設置をクバ国立公園とランビル国立公園において行って定期的なモニタリング調査を行なった。 得られた個体は写真撮影の後、麻酔を用いるかそのままで胃洗浄法またはカエルであれば直接胃を反転させての餌動物の調査を行なった。個体は証拠標本として麻酔後にホルマリンで固定して、後に70%エタノールにうつして液浸標本としてカウンターパートのサラワク州の森林局の研究施設において保管した。また、遺伝子解析や詳細な形態調査の必要な遺伝子サンプルや標本は輸出申請を行なって、約3ケ月後の許可後に再訪して持ち帰った。 持ち帰った遺伝子サンプルは外注を含めたシーケンス実験により塩基配列やゲノムの情報を得て、分子系統解析またはゲノムの機能進化に関する解析を行なった。また標本については詳細な外部形態の計測やmictoCTにより骨格観察を行なった。 多くの地中性または半地中性の爬虫両生類を捕獲して胃内容調査を行なった結果、両生類のヒメアマガエル科、ヌマガエル科、ヌメアシナシイモリ科、そして爬虫類ではスキンク科の複数種でシロアリの捕食を確認した。定量的な評価にまでは至らなかったものの、アシナシイモリなどは高頻度でシロアリを食べていると考えられた。 食べられていたシロアリはシロアリ科やミゾガシラシロアリ科が多かった。またシロアリの巣や、巣の下などの土壌も掘り起こして探索したが、シロアリを狙って集まっている種は確認できなかった。ゆえに、どのような状況でシロアリを捕食したのかまでは解明できなかった。 一方で、捕獲された地中性または半地中性の爬虫両生類には、これまでに捕獲例の非常に少ない種や属、地域で初報告の種、未記載種も含まれていた。特に爬虫類スキンク科のラルティアトカゲ属(Larutia)の一種は、マレーシアのボルネオ島から2個体目の記録という珍しい動物で、その個体の形態的、遺伝的な特徴を調査した結果、未記載種であることが明らかで新種コガタラルティアトカゲ(L. kecil)として命名した。 また、まだ研究中の残りの標本についても未記載種が含まれていることが分かっている。 ボルネオ島から2種目のラルティアトカゲ属となる本種の発見は、熱帯雨林の林床に生息する小型爬虫類の多様性がこれまで過小評価されてきたことを示している。これらの小型爬虫類は、哺乳類や鳥類などと比べると野生動物保護などで見過ごされがちであるが、近年の東南アジア地域における熱帯雨林破壊の影響を大きく受けていることが示唆される。 また、これら未解明の点の多い地中性または半地中性 −190−発表番号 91 〔中間発表〕

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