2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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東東京京湾湾ににおおけけるる赤赤潮潮原原因因珪珪藻藻のの真真のの消消費費者者をを探探るる 横浜国立大学大学院環境情報研究院 教授 鏡味 麻衣子 1. 研究の目的と背景 東京湾では植物プランクトンが大発生する赤潮現象がしばしば起こる。赤潮の発生により、水質は低下し、海底は貧酸素化し、水域生態系は大きく変化する。赤潮を抑える為には、発生メカニズムだけではなく、消失過程についても検討する必要がある。 東京湾の赤潮を形成する主要な植物プランクトンはSkeletonema, Thalassiosiraなど大型の珪藻である。これらはカイアシ類など甲殻類動物プランクトンに捕食される。ただし珪藻はカイアシ類にとって必ずしも質の良い餌ではなく、どの程度捕食されているかは定かではない。 近年、次世代シーケンサーを用いた網羅的DNA解析により、海洋において菌類や原生生物など多様な真核微生物がいることが明らかになってきた(Grossart et al. 2020)。多くはDNA解析だけでは種名を特定できず、正体が不明でありMicrobial Dark Matterと呼ばれる。この正体不明の真核微生物のなかに、大型の珪藻に寄生・捕食する生物が多く含まれている可能性が高い。 本研究では、東京湾の赤潮形成珪藻を消費する真核微生物を把握するとともに、珪藻へ最も影響を与える生物を明らかにすることを目的とする。顕微鏡観察、単離培養、Single cell PCR法(Ishida et al.2015, Wurzbacher et al. 2019)を併用することで、遺伝子のみで検出される正体不明のMicrobial Dark Matterと赤潮形成珪藻との関係を解析する。赤潮の消失過程を明らかにすることで、赤潮の発生制御や東京湾の水質改善につなげる。 2. 研究内容 A)調査(2019年5月から2020年4月まで月2-4回) 東京海洋大学の実習船「ひよどり」にて、東京湾内湾の3地点(F3, YD, CB)を定点とし調査を行った(図1、共同研究者 東京海洋大学片野俊也准教授)。寄生生物の多様性把握のために 試料の一部をろ過捕集し次世代シーケンサーの解析用試料とした(解析は2020年度に実施予定)。 図1.調査箇所 B)顕微鏡観察・単離培養・感染実験 調査ごとに顕微鏡下で海水を観察し、寄生生物とその宿主を検出した。菌類を特異的に染色する試薬 (Calcofluor WhiteおよびFITC-WGA)を用いて蛍光顕微鏡下で観察した。2019年12月および2020年3月の試料には珪藻Skeletonema sp.に寄生する菌類様の生物が確認できたが、ピペットでの単離培養はうまくいかなかった。同時に釣菌法(培養したSkeletonema sp.に海水を添加して寄生生物が釣れるか)を試みた。Skeletonema sp.が減少したものについて、鞭毛虫が認められたが、珪藻に寄生するか否かは明らかにならなかった。 寄生生物の宿主となり得る珪藻を複数種単離した(Skeletonema sp. Stephanopyxis sp.など)。また珪藻に寄生する微小鞭毛虫および珪藻を捕食するアメーバの単離培養に成功した(図2、山﨑2020, Ando et al.投稿準備中)。微小鞭毛虫は分子系統系統解析の結果、卵菌類Pirsonia sp.と判明した。Pirsonia sp.が寄生できる珪藻の範囲(宿主特異性)を様々な珪藻と培養する感染実験により評価した。その結果、株によって感染できる珪藻が異なり、Pirsonia sp.2017はCerataulina pelagicaとRhizosolenia setigeraに寄生するが他7種(Chaetoceros sp., Ditylum brightwellii, Eucampia zodiacus, Pleurosigma normanii, Skeletonema sp., Thalassionema nitzschioides and T. −192−発表番号 92 〔中間発表〕

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