2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ナナフシの卵を利用する昆虫の多様性と卵を運ぶ意義の解明 九州大学大学院 農学研究院 助教 三 田 敏治 1. 研究の目的と背景 本研究では,ナナフシの卵を運ぶという特殊な性質をもった卵寄生蜂とアリに着目し,その種多様性や利用方法を明らかにすることで,これまで見過ごされてきたナナフシ卵のエサ資源としての役割や,「卵を運ぶ/運ばせる」意義を検証する. ナナフシ類は移動性が低いため,しばしば鳥や哺乳類などの捕食者の格好の餌となっている.一部のグループでは木に産み付けられたりリター層に産みこまれたりするものの,彼らの卵の大部分は樹上から直接地表面に産み落とされる(Robertson et al., 2018).卵はセイボウ科の寄生蜂によって寄生される他,卵より蓋帽がアリを誘引するという報告もある(Stanton et al., 2015).卵を利用する昆虫を野外で観察した例は過去ほとんどないが,ナナフシ類は低緯度地域でその種多様性も個体密度も高いため,その卵を利用する捕食者や寄生蜂の多様性も高いと考えられる. 初年度である2019年は,ベトナム北部のククフォン国立公園でナナフシ類の飼育によって得た卵を設置し,集まる昆虫の構成と利用様式を調査したほか,アメリカ国立自然博物館でナナフシ卵寄生蜂の標本調査を実施した.本講演では,2020年3月の日本生態学会で発表した内容(三田 他,2020)を中心に,野外調査の概要について報告する. 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 卵に集まる昆虫と利用方法 フィールドカメラを用い,卵に集まる昆虫を記録した.卵は,蓋帽の有無と数を記録して1晩設置した.大きく分けて,その場で捕食するものと別の場所へ持ち去るものがみられた.設置した卵をその場で捕食する昆虫として,カマドウマ類(図1)が確認された.蓋帽を捕食する昆虫として,小型のアリが確認された.卵を持ち去る昆虫として,中型,大型のアリが観察された(図1).卵は程度の差こそあったが,蓋帽の有無にかかわらず持ち去られた.また,アリの巣の内容物を調べると複数種のナナフシ卵が見つかった. 卵の蓋帽の効果 様々なタイプの卵を設置し,他の昆虫に利用された卵の条件を検討した.蓋帽のある卵(73%)の方がない卵(39%)に比べて2倍近く捕食者によって食べられるか,持ち去られる割合が高かった(図2). 020406080蓋帽ありなし図2.卵の”蓋帽”と被害率 N = 62 N = 82 図3.卵を引きずるMahinda属の寄生蜂 図1.卵に集まるカマドウマ(左)とアリ(右) −196−発表番号 94 〔中間発表〕

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