2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
203/206

隠された卵の被害率 Mahinda属の卵寄生蜂に卵を与えて寄生行動を観察したところ,彼らも卵を落ち葉の下など物陰に運んでから産卵した(図3).卵を隠す行動の意義を明らかにする目的で卵に落ち葉を1枚かぶせた卵がどの程度他の昆虫に見つけられるのかを調べた.何もしない卵は58%が運ばれたのに対して,落ち葉をかけた卵の運ばれる割合は20%と少なかった(図4). 考察 Rapp (1995) はナナフシ卵の天敵としてげっ歯類や鳥類も上げているが,今回の調査では昆虫以外の捕食者を確認していない.一方で,カマドウマが卵を捕食することは今回初めて確認された.また,卵を利用するアリは複数種存在し,その体サイズに応じて利用の仕方が異なることがわかった.蓋帽はアリを引き付けるが,蓋帽のない卵も同様に巣に持ち帰られている.今後は巣の中で実際に蓋帽や卵本体がどのように扱われているか明らかにする必要がある.設置卵のおよそ半数(53%)が運ばれるか捕食された今回の調査に比べると,Rapp (1995)はより高い値(67-72%)を報告している.寄生蜂にとって捕食者の存在は大きな脅威だが,仮に卵そのものが捕食されなくともアリの巣に運ばれることは羽化の際襲われるなど不利に働くのではないかと考えられる.Mahinda属の寄生蜂は落ち葉の下などに卵を運んで寄生したが,その程度の隠蔽であっても捕食者からの被害を大きく低減することができるため,天敵回避として効果があると考えられる.同様にトゲナナフシ類の一部やコブナナフシ類が地面に卵を産みこむこと(Robertson et al., 2018)も天敵回避に役立つと考えられる. 3. 今後の展開(計画等があれば) 調査でアリの巣の中より発見されたナナフシ卵から寄生蜂が羽化したことから,アリと寄生蜂の巣内での関りあいについて観察によって明らかにする計画である.また,2019年度は主にナナフシヤドリバチ亜科について分類や生態を調べたが,今後はカブトバチ亜科についても同様に調査を実施する予定でいる.本亜科は特異な形態をしているため,アリの巣への適応の可能性についてより踏み込んだ実験,観察を行う. 4. 参考文献 三田敏治・久末 遊・Hong Thai PHAM・細石真吾(2020)ナナフシの卵に関わる昆虫群集とその利用様式.日本生態学会第67回大会講演要旨.P2-PA-008. Rapp G (1995) Eggs of the stick insect Graeffea crouanii Le Guillou (Orthoptera, Phasmidae). Mortality after exposure to natural enemies and high temperature. Journal of Applied Entomology 119(1-5): 89-91. Robertson JA, Bradler S & Whiting MF (2018) Evolution of oviposition techniques in stick and leaf insects (Phasmatodea). Frontiers in Ecology and Evolution 6: 216. Stanton AO, Dias DA & O’Hanlon JC (2015) Egg dispersal in the phasmatodea: Convergence in chemical signaling strategies between plants and animals? Journal of Chemical Ecology 41(8): 689-695. 5. 連絡先(掲載してよい場合、住所、電話番号、E-mailアドレス等) 〒819-0395 福岡市西区元岡744 九州大学大学院 農学研究院 農業生物科学講座 昆虫学分野 ウエスト5号館522教室 Tel: 092-802-4573 E-mail: t3mita@agr.kyushu-u.ac.jp 020406080隠す隠さない図4.落ち葉で隠した卵の被害率 N = 90 N = 90 −197−

元のページ  ../index.html#203

このブックを見る