2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ナナノノ液液体体をを用用いいたた異異種種多多次次元元イイメメーージジンンググ技技術術とと統統合合解解析析手手法法のの開開発発 大阪大学大学院理学研究科 助教 大塚 洋一 1. 研究の目的と背景 生物の構造的・機能的な最小単位である細胞の分子濃度は、1細胞あたり10-3 molから103molまで幅広い。細胞内では、分子量や化学的性質の異なる様々な分子が相互作用して代謝反応を生じ、細胞の健康状態に応じて分子種のバランスが変化する。したがって、細胞や細胞ネットワークで構成される生体組織の、化学組成の不均一性を理解することは、疾患の病態解明や将来の高度診断技術の実現のために重要である。 筆者はこれまでに、「タッピングモード走査型プローブエレクトロスプレーイオン化法(t-SPESI, tapping-mode scanning probe electrospray ionization)」を発明し、生体組織中の化学成分分布の可視化を報告してきた。図1にt-SPESIの模式図を示す。高電圧を印加した溶媒を、振動するシリカキャピラリプローブ(プローブ)中に流しながら、試料とプローブ端部を断続的に接触させることにより、液架橋とエレクトロスプレーを時空間的に分離して、生成することが出来る。t-SPESIを用いる事で、生体試料の局所領域に含まれる化学成分群を、ナノリットル体積の溶媒に抽出し、速やかにイオン化できる。また、試料に対してプローブを二次元走査することで、試料の位置情報に対応した質量スペクトルを計測できる。計測データは試料の座標情報と、質量スペクトル情報を含む多次元構造であり、オフラインで特定のm/zの信号強度と試料の座標情報を結びつけることで、イオン化された成分の分布を画像化することができる。 本研究では、第一に、凹凸のある試料に対して安定的にプローブ走査を行う技術の開発と、これを用いた化学情報、試料表面の凹凸構造の同時計測を実現すること、第二に、プローブ先端部分の液架橋の物理情報と化学情報の同時計測を実現することで、新たな多次元イメージング技術の実現を目指すこと、第三に生体試料の多次元データの特徴量の可視化方法を開発すること、を目的とした。本稿では第一と第三の結果を述べる。 2. 研究内容 (1) t-SPESIにおけるプローブ走査の安定化 プローブの振動振幅を計測する方法として、二つの方式を開発した。紙面の都合上一つの方式を述べる。 投影型方式の模式図を図2に示す。レーザ光をプローブの側面から照射し、その影をフォトダイオードで検出する。プローブの振動情報は、ロックインアンプに入力され、振幅と位相が計測される。振幅値はアナログデジタル変換処理を行ったのち、リアルタイムOSでフィードバック制御に用いられる。本技術により、プローブが試料上を走査する間に、振動振幅が一定値を維持するように試料ステージの高さが動的に調整される。 (2) 物理・化学情報の同時計測 投影型方式の振動計測法とフィードバック制御システムを用いて、凹凸のある試料の計測を行った。撥水性高分子膜中に、直径一ミリのガラスウェルが形成されたスライドガラス基板を用いて、既知濃度のRhodamine B溶液をウェルに滴下・乾燥することで試料を作製した。複数のウェルを含む領域をt-SPESIを用いてイメージングを行った。フィードバック制御の出力信号を試料面に対してマッピングした結果、試料の凹凸と対応すること図1タッピングモード走査型プローブエレクトロスプレーイオン化法の概要図 図2 プローブの振動計測法の模式図 −18−発表番号 9〔中間発表〕

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