2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ヘヘキキササアアリリーールルベベンンゼゼンンののトトロロイイダダルル効効果果をを活活用用ししたた 高高効効率率フフォォトトンンアアッッププココンンババーージジョョンン 大阪大学大学院工学研究科 准教授 森 直 1. 研究の目的と背景 構造化学的に特異な様々なキラル化合物の物性、特に円二色性(CD)や円偏光発光(CPL)に関しての構造物性相関の体系化を進める中で、点不斉や面不斉、軸不斉、らせんキラリティーをはじめとし、最近ではメビウスキラリティーやナノチューブのキラリティーに関しても理論と実験の両面からの検討を進めてきた。特に最近、ヘキサアリールベンゼンの創成するプロペラ型のキラリティーについて興味を持ち、多方面から検討を進めている。 低いエネルギー(長波長)の光を高いエネルギー(短波長)の光に変換する技術であるアップコンバージョンにおいて、近年、実用性の最も高い三重項三重項消滅(Triplet-Triplet Annihilation, TTA)を経る機構が注目されている。TTA活性を有する有機無機複合材料の開発などが精力的に進められており、その応用が特に注目されている。しかしながらモデル分子を用いた寿命や効率の検討から分子設計に関する指針を得るなどの基礎研究も重要であることは間違いない。TTAにおいては、ドナーの励起により生じた励起種から項間交差により三重項励起状態を発生し、アクセプターにその励起エネルギーを移動させる。励起三重項のアクセプターが衝突すると、励起一重項へと遷移し、アップコンバージョンが達成される。したがって、その効率は、ドナー内、ドナーからアクセプター、さらにはアクセプター同士のエネルギー移動(エネルギーホッピングやエネルギーマイグレーション)の効率に支配される。すなわち、高いエネルギー移動効率を有機分子に保持するためには、その論理的な分子設計が重要となる。 本研究では、光合成などの光エネルギー捕集系がどのように機能しているかをヒントに分子設計と実証実験を行った。このようなエネルギー補修系では、しばしば、光感受性部位が環状配置されたものが見受けられる。例えば、紅色光合成細菌の光合成器官に存在するアンテナ色素系などにおいて環状の集合構造が重要であることが知られているが、その真の効果はほとんど明らかとなっていない。このような効果を解明することができれば、TAA分子の母体構造として応用することにとどまらず、太陽光エネルギーの利用技術革新にも重要なヒントとなる可能性があり、人工光合成における色素の分子集合体設計への応用をはじめ、光合成のエネルギー伝達に関する理論的な解明などへの展開が期待される。本研究では、環状に感受性部位を配置するために、ヘキサアリールベンゼンを基盤骨格として活用し、クロモファー間のエネルギーホッピングを促進させ、TTA型アップコンバージョンへの効果を検証した。最終的には、高効率のアップコンバージョン技術を確立することが目的である。 2. 研究内容 (実験、結果と考察) 本研究では、電子受容体となる複数のクロモファーを近接位に並べただけの分子や、積層によって多数分子を一様に並列した従来型のアップコンバージョンの研究から一歩脱却し、ヘキサアリールベンゼンを基盤骨格として活用し、環状(プロペラ状)にアクセプターを配列することでエネルギーホッピングを促進させ、エネルギー移動効率がどのように変化するかを精査し、三重項三重項対消滅型アップコンバージョンへの効果を検証するとともに、高効率のアップコンバージョン技術を確立することが目標である。ヘキサアリールベンゼン骨格においては、アクセプター間での三重項エネルギーホッピングの効率が向上するだけでなく、周囲が遮蔽されることによって失活過程も抑制されるものと期待されるが、この研究の開始まで、環状(プロペラ状)トポロジーとエネルギー移動効率との相関に関する検討はほとんど −20−発表番号 10〔中間発表〕

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