2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
35/206

図図33.. 鋳型内における酸化亜鉛ナノ粒子の粒径制御構築 一方で、複数のナノクラスターの精密3次元的なヘテロ集積は依然として高難易度の課題であり、これに適した鋳型の設計が望まれた。従来のひとつの‘仕切りのない’大きな内部空間における集積は容易でないと予想されたため、新たな手法として仕切られた複数の内部空間をもつ鋳型錯体の自己集合構築を構想した。当初の設計としては図4(a)のような、1種類の配位子のみを用いた金属イオンとの自己集合によって、M3L2組成のナノサイズ空孔を複数有する鋳型が順次形成される戦略を構想した。実際に三脚型の配位子を設計・合成し、1価金属イオンとの自己集合を種々の条件で検討した。得られた錯体は溶液中におけるNMRおよび、単結晶化を経たX線結晶構造解析によりその構造を明らかとした。しかし結果として得られた構造は、当初の予想を裏切るものであった。すなわち、2つのM3L2錯体が互いにインターロックした2量体型の錯体((M3L2)2)であった(図4(b))。 図図44.. 策定した戦略と実際に得られた錯体の構造 そこでさらに自己集合条件を検討したところ、用いる金属イオン(M = Cu+, Ag+)および溶媒条件を種々変えることで、同様のサブユニットがさらに多量化した錯体群が得られることが明らかとなった(図5)。得られた一連の構造について精査したところ、ナノ粒子合成の鋳型としての適用の観点から、次のような特異な性質を有することを見出すに至った。 1) 金属―アセチレン(配位子由来)間のπ配位による安定化を受けた、特定の多面体構造上における銅や銀原子の厳密な3次元配置が成された 2) 配位子のらせんキラリティ固定に起因する、鋳型空間全体へのキラリティー付与が発現した 結果として、セレンディピティに基づく新たな分子設計と配位駆動自己集合の検討により、銅や銀を特定の多面体上において3次元的に事前集積した鋳型錯体の構築と構造解析に成功した(基礎的な部分についてAngew. Chem. Int. Ed.誌にて報告[3])。ここで得られた鋳型は、配位子のらせんキラリティー固定に起因した、(複雑に絡まった分子構造をもつ)骨格全体の特異な不斉(トポロジカルキラリティー)の発現という前例のない性質を示しており、かつ自己集合条件や配位子設計の調節によりさらに様々なバリエーションの新奇鋳型構築へと繋がる可能性を示す知見が得られた。金属ナノクラスターの形状制御や不斉機能付与の面から、新たな手法の開発が期待できる。 図図55.. 新たに開拓した鋳型錯体群 33.. 今今後後のの展展開開 研究前半において、複数の異なる活性部位を導入した鋳型の構築法を開発することができた一方で、当初の次なる目標であったヘテロ集積には至っておらず、これまで培った基本手法を活用したさらなる検討を進める予定である。その一方で後半では、配位子の新規設計を行うなかで偶然得られたユニークな配位駆動自己集合のプロセスを精査し、さらに応用することで、これまでに例のない構造特性をもつ鋳型錯体の構築へと繋がった。今後は、前半と後半の知見を組み合わせることで、既存の手法では合成困難な形状や機能を示す金属ナノクラスターの構築手法への発展が期待される。 44.. 参参考考文文献献 [1] K. Harris, D. Fujita, and M. Fujita, Chem. Commun. 2013, 49, 6703-6712. [2] (a) K. Suzuki, S. Sato, and M. Fujita, Nature Chem. 2010, 2, 25-29. [3] Y. Domoto, M. Abe, T. Kikuchi, M. Fujita, Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 3450-3454. 55.. 連連絡絡先先 E-mail: domoto@appchem.t.u-tokyo.ac.jp −29−

元のページ  ../index.html#35

このブックを見る