2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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33DDププリリンンタタおおよよびび超超臨臨界界流流体体薄薄膜膜堆堆積積法法をを用用いいたたテテララヘヘルルツツ導導波波管管作作製製法法のの開開発発 東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻 講師 百瀬 健 1. 研究の目的と背景 情報社会の高度化に伴う通信の大容量化により,次世代の通信技術としてテラヘルツ(THz)波通信が注目されている。THz波は大気中の酸素/水による共鳴吸収などによって大きな減衰を受けるため,外界から遮蔽された空間内を伝送する必要がある。導波管寸法はIEEE規格で定められており[1],導波管長さを2cmと仮定すると,通信周波数1THzでのアスペクト比は160と非常に大きい(管径は125×250um)。加えて,将来的な高速・大容量化に向けて更なる高周波化が計画されており,さらに断面寸法が縮小すると共にアスペクト比が増大する。3次元構造形成技術としては金属の切削加工や半導体のリソグラフィが知られるが,外形は大きく内部は小さい導波管への使用は難しく,さらに曲管・クランクを形成できないなど構造自由度に本質的課題を抱えている。そのため,3Dプリンタによる構造形成と金属コートを組み合わせた新規手法への期待は大きい。各種3Dプリンタの中でも,解像度が高いポリマーの光造形が本用途には適している。但し,THz波はポリマーを透過してしまうため,管内壁に金属膜をコートする必要がある[2]。3Dプリンタの性能向上により微細構造形成の目途は既に立っている[3]。一方,電磁波の染み出しを防ぐには,厚さ数百nmの金属膜をアスペクト比100以上の管状構造の内壁に均一に形成する必要があるが,既存の化学気相成長法(CVD)や物理気相成長法(PVD)では菅深部での均一な膜形成が難しく,新たな製膜技術の台頭が期待されている。発表者が検討してきた超臨界流体薄膜堆積法SCFDは,高アスペクト比構造への製膜に関して他技術に対し高い優位性を示している[4]。 以上,ポリマー微細構造形成と金属コートからなる本手法は寸法,自由度ともに制約が限りなく小さく,さらに簡便かつ安価であるため理想的である。そのため,段差被覆性に優れるSCFDを発展させ,独自の導波管形成手法として確立することを目指している。本研究では,その端緒として,(1)ポリマー表面へのSCFDによる金属膜形成手法および(2)最適金属薄膜材料に関する検討を行った。 2. 研究内容 課題(1)に関しては,(1-1)超臨界流体中にポリマーを設置した際に生じうる変形の防止策と(1-2)SCFDにより金属薄膜を堆積するためのポリマー表面処理技術の開発に大別できる。 (1-1) 超臨界流体中における構造の変形防止策の検討 高分子を超臨界CO2中に置くと,CO2が高分子内に含浸することが知られている。製膜プロセス中にポリマー内に含浸したCO2はその後の減圧時に樹脂内で膨張し,亀裂や変形を生じさせる。そこで,まずは文献調査を行い,CO2のポリマー中への溶解度は高圧になるほど大きくなり,高温になるほど小さくなるとの知見を得た。製膜手順は,反応器内へのポリマーの設置,低温超臨界流体の導入,昇温,保持,冷却,減圧であり,上記の知見に当てはめると,溶解度はプロセス初期において最大であり,加熱とともに減少し,冷却とともに溶解度は再び上昇し,減圧とともに0まで減少していると理解できる。つまり,破断の原因は加熱・冷却・減圧に伴うCO2の溶解度の非平衡的な変化であり,特に減圧により溶解度が減少するとポリマー内外に大きな溶解度差が生じ,CO2が急速に脱離することでポリマーが破断・変形することが示唆された。その後,各種検討を行った結果,リアクタを加熱した後にCO2を導入する,冷却→減圧という手順を減圧→冷却とし,かつ減圧速度を小さく抑えることによりポリマーを破断・変形を防ぐことができることを見出した。これにより,ポリマーの変形の心配なく,製膜を行うことが可能となった。 (1-2) バッファ層の形成技術の開発 SCFD中の製膜反応は,還元剤であるH2分子が成長表面で解離吸着しH原子となった後に原料と反応することにより進行する。そのため,SCFDは下地依存性を示し,金属表面に選択的に製膜する。実際,ポリマー表面にSCFDを行ったところ,製膜は叶わなかった。そのため,ポリマーを含む絶縁性表面への金属膜堆積のための手法を検討した。従来検討されてきたCuMnxOyやRuO2などのバッファ層形成は本系でも有効であったが,検討を重ねたところ,ポリマー表面を酸素でアニールす−30−発表番号 15〔中間発表〕

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