2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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33dd遷遷移移金金属属イイオオンンのの真真空空基基準準束束縛縛エエネネルルギギーー準準位位図図のの 構構築築とと新新規規長長残残光光蛍蛍光光体体のの開開発発 京都大学大学院人間・環境学研究科 助教 上田 純平 1. 研究の目的と背景 長残光蛍光体は,励起光遮断後も数~十数時間発光が持続し,夜光塗料として利用されている.近年,普及している白色LED 照明は,青色LED と可視蛍光体で構成されるため,青色蓄光可能な長残光蛍光体の開発が活発に行われている.我々は,白色LED 用蛍光体の消光原因の解明から青色蓄光可能な新規残光蛍光体の展開に成功してきた.例えば、Y3Al5O12(YAG):Ce3+ガーネット蛍光体においては,高温で青色光により励起されたCe3+:5d 準位から伝導帯へ電子が移動する熱イオン化の存在を明らかにし,Al をGa に部分置換することで,伝導帯エネルギーが低下し,室温でも熱イオン化消光が生じることを見出した1,2.熱イオン化消光は,白色LED 用蛍光体にとっては,致命的な問題であるが,長残光蛍光体においては,この電子移動こそが残光発現のための蓄光機構の一過程である.しかしながら,Ce3+ 単独添加ガーネット蛍光体は弱い長残光蛍光を示すものの,内因性欠陥由来による電子トラップのトラップ深さや濃度が最適化されておらず,実用残光蛍光体として残光輝度は十分なものではなかった.これまで,長残光蛍光体においては,他のランタニドイオン(Ln3+ , 例えばDy3+やNd3+)を共添加することで電子トラップを結晶内に導入し,長残光特性を向上させることが一般に行われてきた.これは,一部のランタニドイオンは2 価の状態を採り,電子トラップとして働いているためであると予測されている.我々は,共添加イオンの価数変化に目を付け,様々な価数状態を採ることができる遷移金属イオンにおいてより深い電子トラップの探索を行った.その結果,Cr3+ 共添加イオンがCr2+ になることでY3Al 2Ga3O12:Ce3+蛍光体において優れた電子トラップになることを見出し,青色蓄光可能な長残光蛍光体の開発に成功した3. なお,様々な化合物において最適電子トラップを選択するには,真空準位基準束縛エネルギー(VRBE) 準位図が有効である.我々は,デルフト工科大学のDorenbos 教授が提案したランタニドイオン (Ln) を含む化合物における真空準位基準束縛エネルギー(VRBE) 準位図をいち早く残光蛍光体の設計に取り入れてきた.このエネルギーダイアグラムは,真空準位を基準に2 価と3 価のランタニドイオンの基底準位と化合物価電子帯と伝導帯を描いたものである.このVRBE ダイアグラムの構築により,Ln3+グループから最適な電子トラップを予測することが可能になる.例えば,Y3Al2 Ga3O12のVRBE準位図からは,Yb2+の準位が,価電子帯下端約1eV のところに位置する(図1).つまり,Yb3+ はY3Al2Ga3O12:Ce3+蛍光体において,深い電子トラップを作ると予測でき,電子解放速度が遅くなり,長い長残光が期待される.実際に,Yb3+共添加蛍光体を作製してみると,確かに深い電子トラップが形成されていることが分かり,励起光照射停止5 日後でも残光の観測が可能であるという非常に長い残光を示した4.このようにランタニドイオンのVRBE ダイアグラムは,長残光蛍光体開発において非常に有効である. 図 1. Y3Al2Ga3O12のVRBEダイアグラム しかしながら,Cr3+をはじめとする3d遷移金属(transition metal, TM)イオンの電子トラップの報告は少なく,3d 遷移金属電子トラップの体系的な研究が必要不可欠である.本研究においては,3d遷移金属イオンの電子トラップ解析からVRBEダイアグラムの構築を試み,新規長残光蛍光体の開発を試みた. 2. 研究内容 図2 にY3Al2Ga3O12:Ce3+-TM3+熱ルミネッセンスグロー曲線を示す.本測定においては,低温で励起光を照射することによりホールと電子を生成し,3d 遷移金属イ −34−発表番号 17〔中間発表〕

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