2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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オンや欠陥などに電子が捕獲される.励起光遮断後,サンプルを一定昇温速度で加熱することにより,捕獲されていた電子が解放され,ホールをトラップしているCe3+と再結合することで熱ルミネッセンスを示す.発光強度を温度に対してプロットすることにより,電子解放温度と電子トラップ深さを見積もることができる.得られた電子トラップ深さと第一原理計算から2価の3d 遷移金属イオンのVRBE(3 価の状態で存在する3d 遷移金属が電子を一つ受け取ることで,一時的に2 価状態を採っている)を見積もった.図2 にY3Al3Ga3O12ホストにおけるVRBE ダイアグラムを示す.3d 電子数の増加によりVRBE は単調減少や増加にはならず,ジグザグの曲線を描いた.自由イオンの状態を考えると,半閉殻になるMn2+(3d5)までは,有効核電荷の増加により単調減少すると考えられる.しかしながら,Cr2+(3d4)のところで,大きくエネルギーが上昇しているのがわかる.これは,結晶場により3d 軌道エネルギーがt2gとegに分裂しているため,3d4 の電子配置において,4 つ目の電子が高エネルギーのeg 軌道を占めるハイスピン状態を採るために,エネルギーが上昇したと考えられる5.本実験から得られたVRBE ダイアグラムを利用することにより,ホストの伝導帯下端のVRBE を決定できれば,八面体サイトを置換している3d 遷移金属イオンの電子トラップが予測可能となる. 図図 22.. ((左左)) 熱熱ルルミミネネッッセセンンススググロローー曲曲線線 ((右右)) 33dd遷遷移移金金属属ののVVRRBBEE 作成したVRBEを利用することにより,V3+は深い電子トラップを形成することが予測され,我々は実際にY3Al5-xGaxO12:Ce3+-V3+が,良い熱蛍光体になることを示した6.また,例えば,浅い電子トラップを有するCr3+は,-2eV 程度に伝導帯下端のエネルギーを有するホストを選択することで7,室温で働く長残光蛍光体を作製可能である.これに基づき,(Gd,Y)3(Al,Ga)5 O12:Ce3+-Cr3+ やY3Sc2Ga3-xAlxO12:Ce3+-Cr3+おいて,長残光蛍光体の作成に成功した8. 図3にY3Sc2Al1.5Ga1.5O12:Ce3+とCe3+-Cr3+の熱ルミネッセンスグローカーブを示す.Y3Sc2Al1.5Ga1.5O12:Ce3+においては,内因性欠陥に由来するいくつかの弱いTLピークが観測された.一方,最適電子トラップになると予測されたCr3+を共添加したところ,320K付近に非常に強いピークが観測された.室温付近で解放できる電子トラップを導入できたため,Y3Sc2Al1.5Ga1.5O12:Ce3+-Cr3+において,強い残光を生じさせることに成功した. 図図 33.. YY33SScc33AAll11..55GGaa11..55OO1122::CCee33++,, CCee33++--CCrr33++のの熱熱ルルミミネネッッセセンンススググロローー曲曲線線 3. 参考文献 1 J. Ueda, S. Tanabe, and T. Nakanishi, J. Appl. Phys. 111100,, 053102 (2011). 2 J. Ueda, P. Dorenbos, A. J. J. Bos, A. Meijerink, and S. Tanabe, J. Phys. Chem. C 111199,, 25003 (2015). 3 J. Ueda, P. Dorenbos, A. J. J. Bos, K. Kuroishi, and S. Tanabe, J. Mater. Chem. C 33,, 5642 (2015). 4 J. Ueda, S. Miyano, and S. Tanabe, ACS Appl. Mater. Interfaces 1100,, 20652 (2018). 5 J. Ueda, A. Hashimoto, S. Takemura, K. Ogasawara, P. Dorenbos, and S. Tanabe, J. Lumin. 119922,, 371 (2017). 6 W. Li, Y. Zhuang, P. Zheng, T.-L. Zhou, J. Xu, J. Ueda, S. Tanabe, L. Wang, and R.-J. Xie, ACS Appl. Mater. Interfaces 1100,, 27150 (2018). 7 J. Ueda and S. Tanabe, Optical Materials: X 11,, 100018 (2019). 8 K. Asami, J. Ueda, M. Kitaura, and S. Tanabe, J. Lumin. 119988,, 418 (2018). 5. 連絡先 〒606-8501 京都府京都市左京区吉田二本松町 京都大学大学院人間・環境学研究科 ueda.jumpei.5r@kyoto-u.ac.jp−35−

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