2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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ババルルクク材材料料にに適適用用可可能能ななガガララスス超超安安定定化化機機構構のの提提案案とと実実証証 京都産業大学理学部物理科学科准教授 岩下靖孝 1. 研究の目的と背景 窓ガラス等で知られるシリカガラスに限らず、高分子ガラス、コロイドガラス、金属ガラスなど、ガラス状態は材料科学において重要な役割を果たしている。 近年、基板への分子の蒸着によって「超安定」な薄膜分子ガラスが形成され、注目を集めている[1, 2]。このガラスは通常のものよりも密度が高く、強い力学的特性や熱力学的な安定性と言った優れた物性を示し、新規なガラス材料として大きな可能性を持つ。このガラスの場合、蒸着直後の表面の分子は高い運動性を持つため、ガラス化した下層の上で配置が平衡化され、通常のガラスでは不可能な深い安定状態に到達すると考えられている。一般的にガラスは非平衡状態であるため、その状態や物性は形成過程(キネティクス)に依存するが、この超安定化もキネティクスの巧みな制御により実現されたものと言える。 しかしこの手法では薄膜成長が超安定化の鍵となっており、バルク材料には適用できない。そこで共同研究者である尾澤(パリ高等師範学校)は、ガラス化過程に粒子間の結合を取り入れることにより安定なガラス状態を実現することを考えた:まず小さな粒子(モノマー)のガラス状態を実現し、その状態で粒子同士の凝集体を形成する。すると、凝集体を直接ガラス化したのでは到達しえない高密度(=超安定)なガラス状態が実現されると考えられる。 コロイドガラス自体がガラスの基礎・応用研究で重要な系であるため、粒子間結合の任意制御が実現できれば、ガラス化機構を解明するための新たな実験手段ともなる。そこで本研究ではコロイドガラスの実験系における粒子間結合の制御と、それがガラス状態の構造緩和や安定性に及ぼす影響を解明することを目的とした。 2. 研究内容 本研究では、個々のコロイド粒子の位置を実時間で正確に測定できる2次元分散系を用い、粒子密度を変えて低密度の液体状態から高密度でのガラス状態までを調べる。 試料の作成:真空蒸着とエッチングにより、粒径2.7 mの単分散シリカ粒子(ハイプレシカ、UEXC)の一部(開き角~50°)が金面に覆われた粒子(ヤヌス粒子)を作成した。次に金面をoctadecanethiolで疎水化した。 実験方法:この粒子を粒径2.0 mの単分散シリカ粒子(ハイプレシカ、UEXC)と粒子数比7:3で混合し、超純水(18.2M)に分散させた。粒子分散液を、半透膜で上下に仕切られた試料セルの下部に封入し、セル底面に2次元分散系を形成した。セルには0.1°程度の傾斜を付け、粒子を下方に沈降させ、高密度・ガラス状態の下方から低密度・流体状態の上方までの密度勾配を形成した。 このセルの上部は外部への流路を持ち、上部にNaCl水溶液を入れ、半透膜を通じて下部の粒子分散液の塩濃度を制御する。疎水化金面同士は塩濃度が高くなると疎水相互作用によりまず可逆的に結合し、時間が経つあるいはさらに塩濃度が高くなると不可逆的に結合する。今回は最初のNaCl 0.0 mMの状態から、上部を塩溶液で置換することで下部の粒子分散液の塩濃度を1.0、2.0、4.0、6.0、8.0、10 mMと段階的に変化させた。このとき、各塩濃度で3時間以上静置した後、いったん純水(0 mM)に戻して2時間以上静置し、結合の可逆性を確認した。 観察と解析:粒子分散系を顕微鏡観察し、画像解析から各粒子の粒径と位置を決定した。撮影した動画から全粒子の軌跡を取得し、軌跡データの解析から粒子同士の結合(凝集)、底面への固着、粒子の平均2乗変位(MSD)の時間差依存性を得る。MSDからガラス状態か否かを判断する(後述)。 結果1 粒子間結合の制御:塩濃度の増加に伴い、結合(凝集)した粒子数が増加した。図1は各塩濃度における顕微鏡画像の解析結果である。0.0 mMでは初めから結合していた粒子が僅かにあったのみで、3時間以上観察しても粒子同士の新たな結合は見られなかった。濃度が上がると、4.0 mMで1時間以上安定に結合した凝集体の数が顕著に増加した。凝集体の割合は塩濃度の増加に伴い増加し、8.0 mMからはさらにセル底面に固着した粒子も顕著に増加した。このとき、粒子間の凝集は6.0 mMまではほとんどがヤヌス粒子の2量体であり、疎水化金面同士が結合したと考えられる。一方、8.0、10.0 mMでは−36−発表番号 18〔中間発表〕

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