2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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生生体体材材料料応応用用をを目目指指ししたたセセンンチチピピーードド型型ポポリリウウレレタタンンのの創創製製 奈良先端科学技術大学院大学 教授 網代 広治 11.. 研研究究のの目目的的とと背背景景 ポリウレタン合成の原料は多くの場合、ジイソシアネートとジオールであるため、OEGやPEGをジオールとして用いる研究例が多い。例えば、基礎的な生体適合性の調査や、生体材料利用として臀部関節材料[1]、インジェクタブルゲル[2]等が挙げられる。しかし、これらはいずれも高分子主鎖に組み込まれた構造であり、水溶媒中および生体環境下においてはOEG鎖を充分に活かしきれていないのではないかと考えられる。そのため、ポリウレタン材料の表面改質を図って、固体界面を後から化学的に修飾する方法がいくつか検討されている[3]。 一方、我々は新しい生体材料創製を目指して、一連のモノマー合成を行ってきた。例えば図1a.に示すTMCM-MOE3OMのホモポリマーでは、その水溶液が体温付近(33℃)で下限臨界溶液温度(LCST)を示し、感熱応答性を示すことを見出した[4]。また、TMCM-MOE1OMとポリ乳酸とのブロック共重合体を用いた薬物徐放ナノ粒子調製 [5]、偏析制御されたナノ薄膜調製[6,7]を報告した。 さらに最近、高分子主鎖をポリウレタンとすると、剛直な主鎖と側鎖のOEG鎖という高分子構造に由来して高い力学的強度と生体適合性を同時に付与することを達成した[8]。この構造は“ムカデ”に似ていることから、Centipede型(センチピード型:図1b)と命名し、ミクロ相分離構造を形成する従来のポリウレタン(図1c)とは区別した。このようなポリウレタンはほとんど報告されていない。しかしながら、これまでに報告したセンチピード型ポリウレタンは、汎用のジイソシアネート化合物を出発物質として合成しているため、分解すると毒性の高いジアミン化合物が生成してしまうことが課題であった。 そこで本研究課題では、生体材料としても利用できるセンチピード型ポリウレタンを合成することを目的として、加水分解後しても分解生成物が生体由来化合物となるように出発物質に天然由来化合物を選択した。またOEG鎖の側鎖をデザインすることにより、得られる高分子材料の特徴を調べた。 2. 研研究究内内容容 ((実実験験、、結結果果とと考考察察)) ポリウレタン合成に必要なジイソシアネート化合物は市販品(Carbosynth社製、L-Lysine diisocyanate ethyl ester)を用いた。これを選択した理由は、加水分解後に得られる構造が生体内に存在するリシンであり、生体適合性が高いことが期待されるからである。また、ジオール化合物は、酒石酸の二つのカルボン酸を、片末端メチル化したオリゴエチレングリコールと反応せせることで得たエステル化合物を用いた。ここで、リシンは一つの不斉中心を有しているが、酒石酸エステルについて、二種類の異なる立体配置の酒石酸を用いることで、異なる立体規則性のポリウレタンを合成し、これが高分子物性に与える影響を調べた。 (2-1). 感熱応答性ハイドロゲルの調製 まず、酒石酸エステルの合成とこれを用いたヘキサメチレンジイソシアネートとの重合から得られるポリウレタンを合成した。これらは1H NMRスペクトルにより確認した。また、生体材料への応用を目指してハイドロゲルの調製を試みた。ジオールとして酒石酸エステルを用いていたが、ここに部分的にグリセロールを架橋点となるように導入し、ハイドロゲルの調製を行った(図2)。得られたハイドロゲルは透明性を保っていたが、温度によって収縮し、白濁する様子が観察された。これは、酒石酸エステルの側鎖に導入した3ユニットのオリゴエチレングリコールによる感熱応答性のためである。ハイドロゲルが温度によって収縮す図1. (a) TMCM-MOEmOMの化学構造, (b) センチピード型ポリウレタン, (c) 従来型ポリウレタン −38−発表番号 19〔中間発表〕

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