2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
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る様子を、写真と膨潤率を併せて示した。図に示されるように、乾燥状態で4 mm×14 mmの短冊上のゲルは、水環境下にさらすと4℃と37℃の間で、およそ20時間かけて膨潤及び収縮される様子が観察された。なお、架橋剤として導入したグリセロールの割合を20%から10%へ変化させると、膨潤率が最大で約150%から約250%まで変化させることができた。 (2-2). 立体規則性の異なる感熱応答性ポリマー 続いて、リシン誘導体を主鎖に導入したセンチピード型ポリウレタンの合成を行った。ここでは、二種類の立体配置を有する酒石酸エステルを用い、高分子に異なる立体規則性を導入することを試みた。 高温真空乾燥およびモレキュラーシーブス4Aによって、各試薬を脱水および脱気した。この後、不活性ガスで置換後反応容器に加え、不活性ガス下、オイルバスに浸漬することにより重合を開始した。ジラウリン酸ジブチルすず (DBTDL)存在下、N,N-ジメチルホルムアミド (DMF)中60 ℃でL-リシンジイソシアネート (LDI)とL-オリゴエチレングリコール酒石酸エステル (L-OEG3TA)の重付加反応を行った。4時間後、貧溶媒としてジエチルエーテルを加え、反応を停止させた。これを、ジエチルエーテル/ジクロロメタンで再沈殿を行い、不溶部としてPU-L-LDI-L-OEG3TAを得た (収率74.6%)。D体についても同様にして、PU-L-LDI-D-OEG3TAを得た (収率98.7%)。これらは、ポリスチレンスタンダードによってSEC分析を行うとそれぞれ、L体ではMn = 5800 g/mol, Mw/Mn = 1.75、D体ではMn = 5500 g/mol, Mw/Mn = 2.28となり、ほぼ同程度の分子量が得られた。これらの高分子試料について、紫外可視光分析装置により、感熱応答性を調べた(図3)。その結果、L体の酒石酸を用いて得られたポリウレタンの水溶液の濁度変化が28℃に示したのに対して(図3a)、D体の酒石酸を用いた場合では19℃に示した(図3b)。分子量がほぼ同じであることから、この感熱応答性の差は、ポリウレタンの立体規則性の違いから生じているものと考えられる。 33.. 今今後後のの展展開開 今回報告した高分子について今後はさらに十分な量を合成して生体適合性を調べてゆくことで、高分子材料としての諸物性を明らかとしたいと考えている。 44.. 参参考考文文献献 [1] I. Khan et al., 2005. Biomaterials, 26(6): 633-643. [2] V.H.G. Phan et al., 2016. Sci. Rep. 6: 29978. [3] J.G. Archamboult et al., 2004. Colloids Surf. B, 39(1), 9-16. [4] H. Ajiro et al., 2012. Macromolecules, 45(6), 2668-2674. [5] H. Chu et al., 2013. Chem. Lett., 42(1), 74-76. [6] H. Ajiro et al., 2012. Macromol. Biosci., 12(10), 1315-1320. [7] H. Ajiro et al., 2014. Polymer, 55(16), 3591-3598. [8] D. Aoki et al., 2017. Macromolecules, 50(17), 6529-6538. 55.. 連連絡絡先先 (住所)〒630-0192 奈良県生駒市高山町8916-5 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 物質創成科学領域 ナノ高分子材料研究室. (TEL)0743-72-5508 (E-mail)ajiro@ms.naist.jp 図2. 酒石酸エステルを用いたセンチピード型ポリウレタンのハイドロゲル調製と感熱応答性. 図3. 異なる立体規則性の酒石酸エステルを用いたセンチピード型ポリウレタンと感熱応答性. −39−

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